◇牧師室より◇
「平野にも山にも川が流れ、泉が湧き、地下水が溢れる土地、小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ざくろが実る土地、オリーブの木と蜜のある土地である。」(申命記8:7b-8)
「約束の地」を旧約聖書はこのように表現している。人々が思い描く理想郷のイメージなのだろう。そしてそのイメージの中には、オリーブの木があった。
20世紀以降、オリーブの搾油設備跡がいくつも発掘されている。写真で見ると、石組の円筒の浴槽のような形で、日本の五右衛門風呂を連想させる。最古のオリーブ搾油設備跡は、現在のイスラエルから見つかっている。新石器時代末期、紀元前5千年頃だと考えられている。もともとは野生のオリーブから油の生産を行っていたのだろう。
オリーブを破砕する方法は、石臼に入れて石や杵で押しつぶす方法や、ブドウを潰すのと同様に、足で踏みつけて破砕する方法があったようだ。その破砕したものを絞って果汁にし、果汁の表面に浮いてくる油を分離するとオリーブ油が完成する。ちなみに果汁の20%が油分だそうだ。オリーブの絞りかすは、丸めて乾燥させることで固形燃料にもなった。7千年も前から、オリーブはこの地域の人々の生活を支えてきたのだ。
聖書の世界でもオリーブは重要な位置を占めている。古代イスラエルでは、王・祭司・預言者が職務を与えられる際には、頭に油が注がれた。「油を注がれたもの」=メシアはこのことに由来する。そしてその時に用いられたのがオリーブ油である。またノアの洪水物語では、鳩がオリーブの葉をくわえて帰ってきたのを見て、ノアが地上から水がひいたことを知ったことが描かれている(創世記8:11)。このオリーブの葉は、洪水後の新しい繁栄を読者に予感させている。
オリーブは(ブドウのように)豊かさの象徴であると同時に神様の恵みを人々に実感させる存在であるのだろう。 (中沢譲)