牧師室より

「改正防衛省設置法」が10日の参議院本会議で成立した。この法は、防衛省の背広組と呼ばれる文官が、制服組(武官、自衛官)より優位としてきた規定を改め、両者を対等とする法である。国会では安保法制11法案をめぐり、論戦が続いているが、その陰に隠れて成立してしまった。

これまで背広組が制服組より優位に置かれてきたのには理由があった。かつて大陸に派兵されていた関東軍が暴走し、張作霖爆殺事件や満州事変を起こしたことが念頭にあったからだ。これらの事件は、現地の将校たちの独断で行われたもので、本来は重大な軍規違反であったが、日本政府が関東軍の暴走を承認したことで、この国は泥沼の戦争へと引きずり込まれていった。そのような苦い経験があるにもかかわらず、「改正防衛省設置法」を成立させたのには、それなりの理由が考えられる。

「イラク復興支援特措法」と「テロ対策特別措置法」によって「海外派遣」された自衛官の自殺者が54人にのぼると、菅官房長官は528日の記者会見で明らかにしている。この数字から、戦地に送られた自衛官たちのストレスが尋常でないことが分かる。さらなる派兵を推し進めるためには、「制服組」の地位向上が不可欠であったことは想像に難くない。

ちなみに、この隠された「戦死者たち」を生み出したのは、派兵を推進した政治家たちであった。実際には戦闘地域であるにもかかわらず、「非戦闘地域」であると断じた結果生じたのは、自分の身を守るために発砲することも、戦死することも許されないという極限状態であった。 

この国は、彼ら「戦死者たち」に注目するのではなく、制服組の不満を抑え込み、派兵をより現実的にする決断をしたことになる。

今回の改正法には、「防衛装備庁」(仮称)の新設も盛り込まれている。

この庁は、武器輸出、武器の共同開発等を担当し、政府の承認なしでの「有志連合国」への武器供与の権限も持つようだ。つまり、「集団的自衛権」を実質化するための法が、すでに成立してしまったのである。

厳しい状況が進行する中、キリスト者はどのようにして、平和を語り続けていくのかが今問われている。

     (中沢譲)