牧師室より

書籍紹介〉『原発とヒロシマ「原子力平和利用」の真相』(田中利幸ほか著、岩波ブックレットNo.819

「私は、シビリアンコントロールを明確にした上で、そして平和主義を維持しながら、自衛隊は軍隊であると憲法で明記すべきだと考えている」。これは安倍首相の、あるインタビューに答えての発言である。我が国の首相が、「積極的平和主義」という言葉を繰り返しつつ、戦争のできる国づくりを進めていることは、よく知られていることだ。

 これに似たようなことが、原子力発電所の普及を巡っても起きていた事実を、このブックレットは分かりやすく紹介している。たとえば著者は、このようなある被爆経験者の声を取り上げる。「原子力は原爆の怖さを知った上で使われている。被爆者の、平和利用にだけその力を使って欲しいという悲痛な叫びに支えられ、今日まで続いてきた」(森和久、元日本原子力産業会議副会長)。このような発言は被爆者たちの中で、珍しい発言ではなく、広島・長崎の被爆者たちが、積極的に「原子力の平和利用」という宣伝にかり出されていたという実態を示す。そしてこの「平和利用」キャンペーンは、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領の「平和のための原子力」(1953)という国連演説を起点にスタートし、冷戦下の西側での原発を普及させるという米国の戦略の一環として行われたこと、また日本においては、第五福竜丸被爆を契機とした反核運動の高まりを押さえ込むために、米国が正力松太郎(読売新聞社主)を抱き込みつつ、広島という場を利用して宣伝を行ったことを明らかにする。被爆国日本に原発がなぜ普及したかを伝える貴重な書である。   (中沢譲)