牧師室より

この季節、教会から港南台や洋光台の駅へ歩いて向かう、その道端に、様々な雑草が目につくようになります。細長い葉がたくさん生えて株をつくり、穂が出て開花して実る、イネ科の植物も多く見られます。そうした中に、麦の穂の形をとても小さくしたような「小穂」と呼ばれるものを、一本の茎に互い違いに十数個ほどつけた植物が見られることがあります。ちょうど麦と同じくらいの背丈のこれらの雑草は、植物の分類上イネ科のドクムギ属と呼ばれる仲間に属しています。教会周辺で見られるのは、そのドクムギ属の中のネズミムギという種類が多いのですが、日本ではホソムギや、ドクムギなど数種類のドクムギ属の植物を見ることができます。いずれも、草の姿はよく似ており、牧草として、あるいはそれらに混入して、日本にやって来たと考えられている帰化植物です。

 ドクムギとは、あのマタイ13章にあるイエス様の「毒麦のたとえ」に出てくる、まさにその植物です。実は、ドクムギという植物そのものには、毒はありません。まれに穂に毒のあるカビが発生するので、麦畑にこのドクムギが雑草として生えていると、麦の刈り入れの際にドクムギも混入して収穫され、そのカビが麦と共に口にされると、中毒になることがある、ということらしいです。

 私と譲牧師は、農村伝道神学校の出身です。この神学校には、農作業の授業がありました。学校の敷地内に農地があって、そこで畑を耕し、様々な作物を育てました。私たちの在学中は麦も育てました。麦の刈り入れは、麦秋と呼ばれる初夏の頃です。まだ五月になって間もないころ、神学校の小麦畑で草取りをしていた私は、そこでドクムギが一株あるのを発見したのです。一緒に農作業をしていた先生に、「先生、ドクムギがありました!」と報告すると、他の神学生が嬉しそうに、「きっと敵の仕業です」と言いました。するとニコニコした先生は、「抜かずに、育つままにしておきなさい!」と言いました。まだその頃は、小麦の穂は青々としていたのを覚えています。

やがて麦秋となり、畑は金色に輝いていました。麦を刈り入れようと、鎌を手に畑に向かった私が目にしたのは、まさに小麦色に実った麦の畝の間に、一株だけが緑色のまま目立っている光景でした。それがドクムギだったのです。ドクムギだけ、わずかに熟す期間が遅く、際立つ様子になっていたのです。イエス様の生きられた「現地」で同じ現象があるかどうかは分かりませんが、思わず納得させられた光景でした。

(中沢麻貴)