牧師室より

使用済み切手を、キリスト教海外医療協力会に送ると、それを切手収集家に買い取ってもらい、その換金で得られた資金が、主にアジア地域の医療従事者の派遣や育成に役立てられる、「使用済み切手運動」が1964年から続けられている。この教会でも有志に呼びかけて、この運動に協力している。これは、私にとって嬉しいことでもある。

 古い話で恐縮だが、高校二年の冬休みにネパールへ旅行した。初海外旅行だった。使用済み切手運動による資金が、どのように現地で用いられているのかを学ぶ研修旅行が、日本キリスト教協議会主催で、当時行われており、それに参加したのだ。全国の教会学校の生徒に向けて参加呼びかけがあり、数年続いていたと記憶している。偶然、父がその計画に関係しており、母教会でも、教会学校を通じて使用済み切手集めに協力していたので、興味を持って参加した次第である。

 ネパールで医療活動をしておられた岩村昇医師のもとを、十数名の学生と引率者で訪問し、数名のグループに分かれてネパール各地の学校や病院、山村、チベット難民の村などを訪問し交流した。当時ネパールでは、国教であるヒンドゥー教以外の宗教に国民が改宗することが禁じられていたが、教会があり、そこに集う人々もいた。岩村医師と協力者の方々に迷惑がかからないように、言動に注意して行動するようにと説明された上での旅行だったので、非常に緊張していたのを覚えている。しかし現地では、とても暖かく迎えられ、同世代の人々とも交流できた。

日本で暮らす高校生の生活からはかけ離れた、貧富の差が激しく、階級や民族による差別や区別が日常の中にある社会を目の当たりにした衝撃は大きかった。自分の人生に対する考え方にも、大きく影響を受けた旅行だった。以来、使用済み切手を、周囲1cmほどの余白を残して切り取り、集めて送ることを細々と続けている。切手一枚の換金額は、平均1円にも満たない微々たる額で、それが意味ある金額に達するには、膨大な枚数が必要である。けれども、平凡な暮らしの中でも、これをずっと続けていれば、きっと一人ぐらい、誰かの命を救う助けになるかもしれないという思いがある。あの時出会った人々と共に生きる、ささやかな方法である。(中沢麻貴)