牧師室より

映画『ハンナ・アーレント』を観に行った。並んでチケットを買い、立ち見客があるほどの盛況に驚いた。

ハンナはドイツ系ユダヤ人女性で、ナチスによって、強制収容所に入れられるが、辛くも脱出し、米国に亡命する。ホロコーストの惨劇、亡命後の貧困と欠乏生活などの絶望を体験する。その中で、思索を深め、政治学者になる。

イスラエルの諜報機関モサドが、ユダヤ人虐殺に加担したアドルフ・アイヒマンを拉致し、エルサレムで裁判が行われた。そのアイヒマン法廷を、ハンナは傍聴し、『ニューヨーカー』誌に法廷報告を掲載する。アイヒマンは、上の命令に従っただけであると単調な答弁を繰り返す。ハンナは、ユダヤ人が厳しく迫る犯罪性を見出せない。凡庸な男が命令に従い、職務を遂行しただけである。むしろ、被害者と加害者に共通するものを見出す。それは「思考の停止」である。被害者にも加害者にもならないために「考え続けろ」と訴える。

ハンナの報告はドイツ人を弁護するものと受け取られ、同胞は動転し、傷つく。友人を失い、脅迫に晒され、混乱を引き起こす。しかし、ハンナは主張を変えず「考え続けよ、思考を停止するな」と講義し続ける。

今、この映画に関心を持たれることに意味があると思った。日々、遭遇している様々な問題に対し、思考を停止し、声を上げず、行動もしなければ、問題は先送りされ、事態は悪化していく。事実を直視し、考え抜く批判精神を持つことで、付和雷同する一元化を防ぐことができる。

軍国主義化によって、アジアに不安定をもたらしている安倍政権に対する無批判な迎合は被害者、加害者になる恐れを増大させていく。