牧師室より

137年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』が出版された。多くの人に読まれ、テレビでも扱われている。著者は英国人のクリストファー・ロイド氏で、ケンブリッジ大学で歴史を学んだ後、新聞社の科学記者として活躍した。本の帯には「理系と文系が出会った初めての歴史書」と書かれている。

「母なる自然」「ホモ・サピエンス」「文明の夜明け」「グローバル化」の4部から成り、42章に分かれている。

ビッグバンによって、太陽や地球が誕生して、今日まで137億年間A4版で、500頁くらいにまとめているので、大雑把である。しかし、興味深い歴史の捉え方をして、考えさせられる本である。特に、若い人々に読んでもらいたいと思う。

人類は、約500万年前頃に誕生した。24時間時計で、真夜中まで、20秒足らずの時点ではじまった訳である。地球誕生や生物の発生などを科学的に論述しているが、人類史に大きな比重がかかっていることは当然であろう。

 新参者の人間は、世界中に広がり、多様な文明、文化を作り上げてきた。知恵と力を尽くし、絶対的な主人公に成り上がった。産業革命後の進歩は目覚しい。また、近年のグローバル化は、世界のあり方を大きく変えた。しかし今、世界が危機的状態にあると、誰もが感じている。

 ロイド氏は、エピローグで下記のように書いている。「歴史を分野や時代で細切れにして見ているかぎり、その本当の姿は見えてこない。惑星と生物と人間との密接なつながりを無視するような物語は、『人類は特別の種であり、他の種はどれも取るに足りない存在だ』というおごった考えを生む恐れがある」。

 グローバル化した欲望が生み出した人間格差、天然資源の枯渇、気候変動などが進むと、絶滅種が増え続け、地球は破壊され、人間の生存も危うくなる。人類史は戦いに明け暮れ、勝者によって語り継がれてきた。敗者の側から歴史を見ることが大切であり、人間の驕りと今が良ければという刹那主義から、脱却しなければならない。新参者らしく謙虚に、地球と生物と人間に向き合うことが求められている。ロイド氏は、長く、広い視点で捉える歴史観、文明論への転換を訴えているのではないか。