牧師室より

 憲法において「天皇」がどのように位置づけられているかに、私は大きな関心を持っている。大日本帝国憲法は下記のように定義している。

「第一章 天皇 第一条 大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス 第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス 第四条 天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之を行フ」

 これらの条文によって、天皇を現人神とする偶像崇拝の下で、国民に主権、人権はなく、国民の生死は天皇のものとされた。国体(天皇制)護持のために、どれほどの人が空しく殺されていったか。

 日本国憲法は、天皇を下記のように規定している。「第一章 天皇 第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」主権は国民にあり、天皇は、その国民の総意に基づく象徴の地位にあるという。国民の総意というが、天皇制について意を問われたことは一度もない。また「象徴」という意味がよく分からない。

自民党が出した「日本国憲法改正草案」は下記の通りである。

「第一章 天皇  (天皇) 第一条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。(国旗及び国歌) 第三条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。(元号) 第四条 元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。」

自民党の改正草案は、天皇を「元首」としている。元首とは、head of stateで、ヨーロッパの国法学者が考案した文言である。国王が司法権、立法権、行政権も奪い取られ、落日の下、実質的な権力を失った国王に捧げた新規の尊称だそうである。新規の尊称とはいえ、国民の上に位置する特別な座であることに間違いない。そして、第三条では、国旗は日章旗とし、国歌は君が代とし、これを尊重する。更に、元号は皇位継承の時に制定するとある。

世界はグローバル化に向かっていることは誰もが認めている。天皇制強化をめざす草案は、アナクロニズム以外の何ものでもない。元号の記述がいかに不便であるかは日常的に経験している。

聖書の信仰は、神のみを神とする信仰である。この信仰は、地上のものは全て相対的であることを認め、互いを受け入れ、共にあろうとする。天皇を「元首」とし、国歌、元号で縛り上げ、天皇との距離によって、新たな差別構造を作り出すことに大反対である。