牧師室より

 大治朋子氏が著した岩波新書の『勝てないアメリカ』を読み、下記のような思いが募った。

米国はベトナム戦争に敗北した。ベトコンに追い立てられ、慌てふためいて飛行機に乗り込む映像を鮮明に記憶している。ソ連はアフガニスタンに侵攻したが、ゲリラ戦に悩まされ、敗退した911「同時多発テロ」に怒った米国は「対テロ戦争」として、アフガニスタン、イラクを攻撃した。攻撃対象が見えない非対称の戦争になった。米軍はイラクにも敗北し、撤退した。撤退後のイラクは宗派間の争いで、収拾がつかない状態にある。そして、石油の争奪戦になっている。アフガニスタンには増兵したが、戦果は上がらず、莫大な戦費がかさみ、オバマ大統領は「責任ある終結」と言って、撤退を余儀なくされている。軍事超大国が、小国にことごとく敗退している。

イラク戦争の時は、ピンポイントを狙えるミサイルが導入された。アフガニスタン戦争では、兵隊の犠牲を減らすため、無人飛行機からの攻撃が大々的に行われている。ハイテク兵器を駆使しての攻撃も、勝利を得られなかった。この事実は途方もなく大きい。

軍事大国の敗退には理由がある。武装勢力と一般市民を判別できず、恐怖に怯えた米兵は、だれかれなく発砲し、一般市民の犠牲者を増やした。誤爆が多く、無辜の民間人を殺傷した。無人飛行機は冷徹で、無機的イメージを与えた。現地の人心をつかむ心理戦に失敗したのである。これからの世界は、他国に軍隊を侵攻させても、何のメリットもなく、双方が痛むだけで、戦争はできないことを認識すべきである。

第一次世界大戦で、激戦を経験した兵士たちはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥り、社会問題になった。

ベトナム戦争後に、従軍した米兵士たちも同じ病を負った。イラク、アフガニスタン戦争では、超音波の爆風によって脳の組織を損傷する新たなTBI(外傷性脳損傷)という後遺症が現れ、多くの帰還兵たちは苦しんでいる。

 米国からの報告に接することはできるが、攻撃されたイラク、アフガニスタンの実情を知る機会は極めて少ない。強力な爆弾によって、多くの民間人が殺されているのだから、米兵より、深刻なダメージを受けているはずである。その事実を発信して、暴力の無謀さを訴え、平和を実現してほしい。不公平さが、際限のない争いとテロを生み出しているのではないか。