牧師室より

アルフォンス・デーケン神父は大人のための「死生学」を広げようと「第三の学校」を開き、現在、名誉校長をしている。この学校で、ノンフィクション作家の柳田邦男氏の講演会が持たれると聞き、出かけた。講演は「『生きなおす力』を探る―悲しみこそ真(まこと)の人生のはじまり」であった77歳になる柳田氏は2時間半、一滴の水も飲まず、滔々と語り続けた。ノンフィクション作家の凄まじいエネルギーに敬服した。

講演では、東日本大震災と福島原発事故のことから話し始めた。正確な判断と機敏なチームワークで助かったケースと、その逆であったケースを紹介された。助かっても、事故後に亡くなった方が2,500もあり、また、心に受けた傷は深く、霊的ケアが求められていることを強調された。放射能汚染から逃れるために14も転居を迫られた人もあるという。私たちが知る情報は「復興」という言葉、そして希望を与えるものが多いが、現地を訪ねた人の報告は深刻である。

柳田氏は、政府、行政に対する批判はせず、淡々と現地の人々の苦難の状況を報告された。そのような苦難を強いられている中で、驚くような生命力を現し、また素晴らしい言葉を発している人々のことを紹介された。病を持ち、夫に先立たれ、放射能によって、故郷を追われた女性が「それでも世界は美しい」と、フランクルの「それでも人生にイエスという」に重なる言葉を著している。また、被災者を支援し、過労のために死を迎えようしている医者が「欲求は何もない。大きな生命体と一体となるようだ」と死を受容したという。柳田氏は、人が限界に達し、その悲しみの底から、生きる意味と力を得ると多くの事例から話された。