牧師室より

ロバート・キャパの『ちょっとピンぼけ』は小説よりはるかに面白かった。死と直接に向き合った兵士と戦死者たちを戦場カメラマンが描いているので、面白かったと言うにはいささか不謹慎であるが、引き込まれて読んだ。

 スペイン内戦で、銃弾に当たった兵士が体を浮かし、持っていた銃が手から離れる瞬間を撮った「崩れ落ちる兵士」の写真は世界を動かすほどの戦場報道の映像となった。

 物怖じしない自由さ、人間に対する深い関心と愛情が感動を与える写真を生み出したのであろう。

ジョン・スタインベックはキャパの写真を下記のように評している。「彼の写真は、偶然からは生まれない。その作品のもつ感動は、ふとした拍子などから出てくるものではない。彼は、動きと、明るさと、哀しみを、写すことが出来た。―  彼は、思想も写し得た。」

『ちょっとピンぼけ』は、キャパの体験を小説風に書いている。まず、そのタフさに感嘆した。初対面の人とも明るく、気さくに溶け込む会話術は天性のものであろう。酒豪なのにも驚くが、ギャンブルには弱かったらしい。

米国から英国に渡り、恋に落ちるが、ノルマンディ上陸作戦にカメラマンとして赴く。地獄の戦場で、タフさを誇った彼も、現実を直視できなかったのか、失神している。パリの解放を見届け、ドイツ戦線にも同行する。ライプチヒで、銃を握る若々しい兵士の清潔で、緊張した顔にシャッターを切った瞬間、彼はがっくりと仰向けに倒れ込んだ。緊張した顔と血を流して死んだ二枚の写真は、戦争の非情さを伝えている。

キャパは、インドシナで地雷に触れて、命を落としている。時代を写し撮った生々しい写真は人々に強いインパクトを与える。キャパの人間性は、ピンぼけどころか、魅力に溢れ、愛情に満ちていた。

ジャーナリスト山本美香氏は、シリアで政府軍側の銃撃を受け、殺害された。私は、彼女の写真を見たことはないが、戦争で弱い立場に置かれる子供、女性たちの現実を世界に知らせたいという勇気に敬服する。彼、彼女らの命をかけた報道が生かされ、戦争の悲惨さを認識し、終わりをもたらして欲しいと熱望する。