◇牧師室より

池明観先生の「東アジア史と日韓関係」と題する講演会が信濃町教会で開催された。池先生は、米国在住のご子息の所に行かれ、永住される。その途中、日本に寄られたのを機に、講演されることになった。池先生の講演を聴く最後の時になるのではないかと、聴講に行った。聴講者が多く、予定した集会場に入りきれず、急遽、礼拝堂で持たれた。

私は、宮崎県の延岡三ツ瀬教会に赴任した70年代、教会形成に苦闘していた。その頃、月刊誌「世界」に、匿名のT・K生の『韓国からの通信』が連載され始めた。韓国の軍事政権下、それこそ命を賭して、民主化闘争を繰り広げる人々の凄まじい苦しみを伝え、しかし「春は訪れる」と希望に満ちた通信であった。『韓国からの通信』に本当に励まされ、キリスト教信仰とは何かを教えられた。

それから数年後、池先生の講義を聴く機会を得た。高い理性と豊かな感性で語られる講義に魅せられた。私は「『韓国からの通信』を書いているT・K生は誰なのでしょうか。韓国政府は血眼になって探しているでしょうね」と尋ねた。池先生はただニコニコ笑っておられた。

2003年に新聞で、T・K生は池先生であったと報道された。私は驚き、また、なるほどと嬉しかった。

今回の講演会でも『韓国からの通信』に関して、色々な角度から話された。クリスチャンとノン・クリスチャンの双方が、日韓連帯委員会を作り、相互に協力しながら、民主化闘争を支援した。秘密裡に送られた情報から書かれた『韓国からの通信』は日本から世界に発信され、民主化を勝ち取る大きな力になった。それだけでなく、日本の市民意識を変えていく契機にもなった。

池先生の講演は、「日中韓」は価値観、エートスが異なるが、大きな枠組みの中で平和を構築するようにという内容であった。