◇牧師室より

荒井英子氏の『弱さを絆に ハンセン病に学び、がんを生きて』を読み、襟を正される思いがした。荒井氏はがんで亡くなられたが、お連れ合いの荒井 献先生が編纂して上梓している。

荒井氏は、ハンセン病者と出会い、関わり続け、また、北海道・浦河にある精神を病む人々の共同体「べてるの家」での体験から、学んでいる。更に、ご自分のがんを見つめながら著している。そこには、人に対する限りない優しさと愛が溢れている。その優しさと愛は、こちら側の思い込みや社会常識や通念ではなく、事実を事実として受け止め、その事実に寄り添う柔らかな感性から生み出されている。

ハンセン病者、障がい者、女性、戦争被害者たちの場に立った時、がんを患うご自身を含め、弱さを絆に結び合う関係があることを力説している。その絆は、弱さを持つ人々への上からの憐れみでなく、弱さから強さへと向かうことへの激励でもない。あるがままの隣人として、共にあることである。

荒井氏の関心は「信仰と人権」にある。ハンセン病とキリスト教の関わりは長く、深い。その関わりはハンセン病者の苦悩をオブラートで包み込み、美化し、隠蔽させてきたと指摘する。平和運動家して名を馳せた植村 環氏、中国での壮絶な熱河伝道、戦後「パンパン」と呼ばれた占領軍慰安婦制度などの事実経過を読み解き、時代への無批判な迎合、独りよがりで熱心な信仰がいかに人権を蹂躙したかを露わにしている。敬虔な信仰が人々を貶めてきたことを指摘する視点は「弱さを絆に」から生まれている。信仰はもちろん、神から示される救いの恵みを受け入れることであるが、それは同時に、人をその人として見、犯すことのできない尊厳を認め合うことである。「いのちの尊厳に立脚した自己相対化の作業を地道に続けることからしか出発しないであろう」という言葉で、この本を結んでいる。

先入観なく事実を直視し、その前に真摯に立つこと、そして、聖書をどのように読むかについて、深く考えさせられた。