◇牧師室より◇
東日本大震災の被災地を訪問してきた。被災者を支援している「東北ヘルプ」で奉仕している三枝千洋牧師と出会い、訪問したいと言ったら、案内してくれるとの返事だった。2泊3日、三枝牧師の車で、被災した諸教会を訪ね、海岸線を岩手県の南部から宮城県を通り抜け、福島県の原発事故で規制されている20キロメートル地点まで走った。また、「東北ヘルプ」の働きについて説明を受けた。
「百聞は一見にしかず」と言うが、テレビで見るのとは全く違う様相を見、また色々な話を聞くことができた。地震の被害はあまり見えないが、津波の被害の甚大さに呆然とした。津波のエネルギーは想像を超える。海岸線は家の土台だけが残り、荒涼とした砂漠のような地域が延々と広がっていた。そして、瓦礫の山が点在していた。一年経ったので、それなりの整理はついているが、大きな船や石が今なお残っている。人々の苦しみと悲しみが折り重なっている状況は十二分に理解できた。
生と死を分けた話、家族を失った人々の悲しみ、負わされた深い精神的な後遺症、自死者が絶えない話なども聞いた。
被害が大き過ぎて、復興は並大抵ではない。政治は消費税問題に絡んで、政権闘争をしているが、今は復興を第一に進めるべきではないか。そして、その復興に関して、当事者たちの立場の違いで、混乱と争いがあるという。先が見える希望ある状態ではないように思える。
最も悩ましいのは福島原発事故である。事故地から160キロメートル離れた千厩教会を訪ねた。三枝牧師が持っていた計測器で測ったら、敷地の枯葉から高濃度の放射能が検出され、驚いていた。近隣の山々はひどく汚染されているらしい。
20キロメートル内には入らないように、厳しい検問が行われていた。放射能を出し続けているのだから、人が住めるようになることはないだろう。人間の高慢と利己主義、そして無知は本当に罪深い。文化を変えることが求められている。
「東北ヘルプ」は地道に、人の心に届く細やかな支援活動をしている。教派を超えた諸教会を訪ねたが、教会は地域社会に対し、実によく仕えている。教会の働きに自信と誇りを与えてくれた。それが、辛く悲しい訪問の中での喜びであった。