◇牧師室より◇

小井沼眞樹子師が太田道子氏の本を二冊持ってきて「読んでみて」と言われた。大変感銘を受け、太田氏から直接講演を聞く機会はないかと思っていた。

今年の「ラテンアメリカ・キリスト教ネット」の研修会に太田氏を講師に招くという案内状が来た。良い機会を得たと、喜んで参加した。

太田氏は四代目のクリスチャンで日本の大学を卒業してから、アメリカ、イスラエル、イタリア、ドイツなどで、最高の学問を修めている。それは、福音書に記されているイエスとは誰かという問いから発した勉学であった。福音書を理解するためには旧約を、旧約を理解するためには古代オリエントをと、遡っていき、膨大な知識を吸収した。帰国後、新共同訳聖書の翻訳に関わり、大きなエネルギーを傾注してきた。

講演は、聖書の「聖」の字が間違いで、ここから「神の言葉」という上からの教えが語られるものと理解されてしまうと語り始めた。そして、古代オリエントの地勢、風土、政治、経済、文化から聖書が生み出されていった過程を具体的に話された。壮大な古代史の文脈の中で、流浪する難民が、必要に迫られて、苦闘しながら、生の意味を肯定的に捉えた「文学書」で、世界に二つとない貴重な書物である。イエスは、それらの苦難の歴史の中で、人間が人間になることを「全肯定」する結論を提示した人であると話された。

また、太田氏は「地に平和」というNGOを立ち上げ、パレスチナ難民の支援活動を精力的に続けている。命の危険に晒されながら「生きのびること」によってイスラエルへの抵抗を表す彼らの状況と苦悩を話された。パレスチナとイスラエルの紛争問題は世界の争いの根底にある。しかし、これを解決することは容易ではない、また、解決させずに利益を得ようとする勢力のあることも指摘された。この問題の歴史的、現実的状況を正しく知り、的確な対応が求められると力説された。

太田氏79歳であるが、合計14時間を越える講演をされ、休憩時間も質問に応じていた。出来事の意味を捉え、自由、闊達に是々非々を峻別する。その迫力に圧倒された。