◇牧師室より◇

米国の臨床精神科医のM・スコット・ペックが著した「平気でうそをつく人たち−虚偽と邪悪の心理学」は15年前に単行本で翻訳、出版された。大変教えられたので、精神科医をしている姪に「読んでごらん」と言ってあげた。50万部も売れたベストセラーだそうで、8月に文庫本で再出版された。買い直し、読んでみた。

悪は殺しと関係があり、その殺しは肉体的な殺しだけでなく、精神を殺すものである。人間の生は意識、知覚、成長、自律性、意志などの特性を持っている。悪は、それらを殺す、あるいは殺そうとする。他人を支配したい欲望が相手に依存性を助長させ、思考能力を弱め、独自性や創造性を減じる状態に押さえ込もうとする。邪悪な人は、そのように隣人と向き合い、傷つけていく。

ペックは、上述のような支配と被支配関係にある親子、夫婦の臨床体験をいくつもあげている。被支配に置かれた人は苦しみ、もがき、精神科医を訪れる、また連れて行かれる。ところが、支配の立場にある人は自分の振る舞いが全く見えていない。自己批判できず「罪の自覚」を持ち得ない。平気で、自分自身と隣人にうそをつく。そればかりでなく、自分の正当性と愛の深さを主張し、問題を他者に転嫁し、攻撃的にもなる。

社会的な地位も高く、裕福な親が息子を大事にしていると言うが、息子の心を無視し、傷を負わせている。また、妻が夫を理不尽に支配し、自律性を喪失させている。精神療法を必要としているのは支配している親であり、妻であると諭すが、彼らは全く聞かない。

その事態を下記のように書いている。「邪悪な人間は自責の念 ― つまり、自分の罪、不当性、欠陥にたいする苦痛を伴った認識 ― に苦しむことを拒否し、投影や罪の転嫁によって自分の苦痛を他人に負わせる。自分自身が苦しむかわりに、他人を苦しめるのである。彼らは苦痛を引き起こす。邪悪な人間は、自分の支配下の人間にたいして、病める社会の縮図を与えている者である。」

この構造は個人的にも社会的にも見られる。個人的には、邪悪に陥らぬように、砕かれて自己検証をする 精神が求められよう。社会的には、大きな悲劇を生み出していることを指摘、抗議する責任がある。