◇牧師室より◇

神谷美恵子氏は、ハンセン病者の精神科医として生涯を捧げられた。初めて、ハンセン病者と出会った時の衝撃を下記のような詩に著わしている。

  らい(ママ)の人に

光うしないたるまなこうつろに/肢うしないたるからだになわれて/

診察台の上にどさりとのせられた人よ/私はあなたの前にこうべをたれる/

あなたはだまっている/かすかにほほえんでさえいる/ああ しかし その沈黙は ほほえみは/長い戦いの後にかちとられたものだ/

運命とすれすれに生きているあなたよ/のがれようとて放さぬその鉄の手に/朝も昼も夜もつかまえられて/十年、二十年、と生きてきたあなたよ/

なぜ私たちでなくあなたが?/あなたが代って下さったのだ/代って人としてあらゆるものを奪われ/地獄の責苦を悩みぬいて下さったのだ/

ゆるして下さい、らい(ママ)の人よ/浅く、かろく、生の海の面に浮びただよい/そこはかとなく神だの霊魂だのと/きこえのよいことばをあやつる私たちを/

ことばもなくこうべをたれれば/あなたはただだまっている/そしていたましくも歪められた面に/かすかなほほえみさえ浮かべている。

 この詩について「いかにもセンチメンタルで気恥ずかしいが、当時の愛生園の状況は、確かに地獄を連想させるものがあった」と書いている。

 ハンセン病者に命を削って尽くされたが、現在、彼らから「精神科医師として誠実につくした事実、患者から慕われた事実は尊重する。しかし、長年にわたって、幾多の悲劇や犠牲を強いた「らい予防法」を全面肯定した枠内の行動であった」と批判されている。 人は誰でも、時代が生み出す価値観に制約されているということであろう。

神谷氏は大変有能な方で諸々の知識を吸収し、桁外れの働きをしている。医学はもとより、翻訳、著作、そして多忙の中、家庭においても、心遣いの細やかさに驚く。

立花 隆氏はインプット量の増大がアウトプットを豊かにすると言っている。神谷氏のインプット量は膨大である。彼女は知識だけでなく、人との関わりを大切にし、そこから、この詩のように、地獄を我がこととして寄り添うみずみずしい感性で向き合っている。

私のインプット量は貧しく、小さいが、一つひとつの出会いを初々しく体験していきたい。