◇牧師室より◇
「朝日歌壇」に選ばれた人の住所の欄に「ホームレス」と書いた公田耕一氏の歌が続いて掲載された。私は「親不幸通りと言へど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす」という歌に心を奪われた。これほどの孤独を客観視する精神に魅せられたからである。「パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる」という歌もあった。自分の窮乏を淡々と歌っている。自分から抜け出て、自分を見つめられることが真の知性であろう。
フリージャーナリストの三山喬氏が「ホームレス歌人のいた冬」を著している。ホームレス歌人の公田氏の実在を追いかけて「寿町」を探索したドキュメントである。
朝日歌壇には毎週、何千首という歌が投稿されている。その中から、4人の選者が10首ずつ、40首を選んでいる。公田氏は9ヶ月間に38回も選ばれている。驚異的なことである。
公田氏の歌は社会現象になり、ホームレスになった経緯を知りたい、歌集を出したいと多くの人が呼びかけ、動いた。
そして、公田氏の歌に対する応答も広がった。氏は「温かき缶コーヒーを抱きて寝て覚めれば冷えしコーヒー啜る」と歌った。米国で殺人事件を起こし終身犯として収監されている郷隼人氏は朝日歌壇の常連であるが、彼は「囚人の己れが〈(ホームレス)公田〉想いつつ食むHOTMEAL(ホットミール)を」と、獄中で温かい食事を与えられている自分の負い目を歌って応えている。更に「生きていれば詠めるペンあれば書けることを教えてくれるホームレス公田氏(飯塚市)甲斐みどり」、「寒くないかい淋しくないかい歌壇でしか会えぬあなたのしばしの不在(横浜市)井村浩司」と応答は続いた。
著者の三山氏は、公田氏が歌った言葉の中から、関係すると思われる寿町の隅々まで追いかけたが、公田氏にはたどり着けなかった。しかし、そこで出会った人々との対話から、生きることの重さを伝えている。
公田氏は人々の心を捉え、知らずに消えていくのであろう。それが公田氏の生き方であると思わされる。