◇牧師室より◇

主イエスは五つのパンと二匹の魚で五千人を満腹させた。この奇跡は四つの福音書に五回も記されている。民衆にとって心に残る奇跡であった。ヨハネ福音書には、最後に「イエスは、人々が来て、自分を王にするために連れて行こうとしているのを知り、ひとりでまた山に退かれた」と記している。飢えた民衆はパンをたらふく食べさせてくれる人を王にしたいと願った。貧しかった彼らの思いは痛いように理解できる。

選挙は、これと全く同じで、どの候補がパンをたらふく食べさせてくれるかを見比べて、投票している。それが、自民党政権を作ってきた。

福島原発事故以来、原発行政のからくりを明らかにする著作が多く出されている。自民党政権を中心に、官と業と学が一体になって、強力に推し進めてきた。多額なお金が動くと、パンをたらふく食べようと人々は群がってくる。そこでは「クリーンエネルギー」という美名の下で危険性はかき消されていく。実際は、クリーンでも、格安でもなく、処理できない膨大な核廃棄物を出している。原発の強力な推進は豊かさと利便性をもたらしたが、自然エネルギーの開発の芽を阻むことになった。

佐高 信氏は、日本を「土建国家」と評した。無意味なまでの土木、建築工事を進めて、経済成長を煽った。しかし、気がつけば途方もない財政赤字を生み出した。

旧約聖書の預言者たちは偶像礼拝を厳しくいさめた。偶像とは繁栄を至上とするバアルであった。バアルの魅力は抑え難く、人々は群がった。預言者たちは、愛と公平の神に立ち返ることによって、人が共に生きる「人間」になることを求めた。

主イエスは、王にしようとする民衆から身を引かれた。十字架にかかって、人の罪を贖い神に結び合わせ「人間」に回復する救いを示された。偽りのバアル・繁栄に群がるのではなく、主イエスの示された救いに応えることが私たちの信仰である。