牧師室よ

 今年の8月は戦争に関する良心的なドキュメンタリー番組やドラマが多く、戦争について考える機会を与えられた。

 私は、反戦・平和を求める市民団体で「中国帰還者連絡会」を最も信頼している。戦後6万人がシベリアに抑留された。その中から千人ほどが中国の撫順戦犯管理所に連れ戻された。彼らは、貧しい中国人が食べられない豊かな食事を供せられ、病気にも手厚い看病を受け、戦犯とは思えない人道的な処遇を受けた。しかし、そこで自分たちは中国で何をしたかを自問させられた。戦争は、「鬼」にならなければ、人を殺せないし、戦えない。日本軍兵士は敵、味方が識別し難い戦場で、奪い尽くし、焼き尽くし、殺し尽くす、いわゆる「三光作戦」を展開した。日本が負けるなどとは思わず、傍若無人に振舞った。

 ところが、撫順戦犯管理所で寛大な人道的待遇を受ける中で、自分たちが殺害した中国人の遺族の悲しみと怒りを知らされた。残虐な加害の罪を自覚させられ、中国人の赦しの心を知った。その時、彼らは身もだえしながら罪責を告白せざるを得なかった。ここには、凄まじい精神的な葛藤があったが、それは「鬼から人間」への復帰の奇跡であった。

 中国政府は死刑のない、有罪判決を下したが、刑期前に全ての人を日本に帰還させた。「鬼から人間」へ復帰した彼らは、帰国後、「日中友好と反戦・平和」を求めて、戦争の実態を明かす証言活動を続けている。その証言は真っ直ぐで、反戦・平和への希求はひたすらである。

 中国帰還者たちは高齢になり、鬼籍に入る人も少なくない。彼らの精神を受け継ごうと「撫順の奇跡を受け継ぐ会」を発足させた。私も会員に加わっているが、資料を受け取るだけで、会には欠席ばかりである。