牧師室より

ジャーナリストの伊藤千尋氏が『一人の声が世界を変えた』を著している。人間の尊厳を勝ち取ろうとする勇気ある市民の「声」に圧倒された。伊藤氏は世界の3ヶ所の特派員を経験し、68ヶ国を取材している。「日本の記者ではもっとも戦場を踏んでいる一人だ。その経験から、砲弾の発射音や炸裂音を聞くと野砲か戦車砲か迫撃砲あるいは手榴弾か、銃にしてもどんな種類の銃によるものかが分かる」と書いているように、世界で起こっている出来事の現場に行って、人と出会い、生の「声」を伝えている。

「一人の声が世界を変えた」という言葉を聞いた時、多くの人はバーバラ・リー氏のことを思い出すのではないだろうか。米国が911同時多発テロに襲われた後、愛国心が燃え上がり、報復戦争をする権限を大統領に委ねる法案が出された。この時、黒人女性のリー議員は一人反対した。大変な非難を浴び、嫌がらせを受けたが、「この法案が通れば戦争に道を開いてしまうことです。大統領に対して、どこのだれでも攻撃できる白紙の委任状を与えることになります。 性急に軍事行動に走れば、罪もない人々の命をさらに奪うという大きな危険を伴います」と言って反対した。ブッシュ前大統領自身がイラク攻撃は間違いであったことを認めている。リー氏の「声」が現在、大きな支持と賛同を得ていることは確かである。伊藤氏は、市民の「一声」が世界の各地で状況を大きく動かした感動的な事例を報告している。

ルーマニアの独裁者・チャウシェスクが政権を支持する動員集会を持った時、群衆の中から「人殺し」というヤジが飛んだ。このヤジを発端にして、チャウシェスクは退陣せざるを得なくなったという。ヤジを飛ばした人は家を出る時、妻に「俺は帰らないかもしれない」と言い置いたそうである。

伊藤氏は「自由、人権、民主主義」が世界のテーマであると言う。これらを勝ち取る闘いにおいて、クリスチャンの果たした役割の大きかった事例報告を見て、頼もしく、そして教会の使命を強く思わされた。最後に、伊藤氏は「一人の市民が世界を変えた例をさまざま挙げた。この日本でも、一人の市民から声を上げようではないか」と結んでいる。