牧師室より

香山リカ氏が書いた「しがみつかない生き方『ふつうの幸せ』を手に入れる10のルール」は良く売れているらしい。私も読んだ。「『ふつうの幸せ』が最大の幸福 成功願望を手放し、ムダを楽しんだら、必ずもっと満たされる」と帯に書かれた言葉に全てが要約されていよう。香山氏は、この本の中で「ふつうの幸せを手に入れるためには「〈勝間和代〉を目指さない」と書いている。勝間氏も「やればできる」を書いた。

商魂逞しい出版社が「激論 勝間和代 香山リカ 350分 不幸にはワケがある 不安時代の幸福論」を出した。私もミーハーになって商魂に乗った。二人の社会的立場を見れば、その主張の違いを理解できる。勝間氏は会社、政府の行政、大学と多方面で活躍し、著書も多く、熱愛読者も多い。効率・合理主義を貫き、新自由主義を謳歌する成功者のアイコン、典型的な「勝ち組」の人である。時間を惜しみ、大変な努力の中で得た人生である。敬服に値する。

一方の香山氏は精神科医で、人生に敗れ疲れ果てた人々と関わっている。効率・合理主義が彼らの心を蝕んできた事実を見せつけられてきた。努力で幸せは得られない、肩の力を抜いた普通の生き方の中に幸福があると語り、時流に乗って成功した人を真似る必要はないと語る。

二人を分ける典型的な会話がある。

香山 例えばある小説が、1人の人間に自殺を思いとどまらせたとします。でもその作品はいわゆるベストセラーではないから、たくさんの人が買っているわけではない。1人の命を救った作品は、1万人が薄ーく癒やされた作品よりも利他性は低いということでしょうか。

勝間 利他の総合的ボリュームとしては、広く浅く1万人のほうがボリュームは大きいということです。

香山 それが市場主義なのでしょうか。私には正しいとは思えません。全然。例えば医者の仕事は直接会った人しか助けられないので、非常に少ない人数しか関われないじゃないですか。

 大局的に見て、効率的・合理的に進める仕事もある。牧師の務めは11で関わることが多い。「徒労に賭ける」という言葉がある。主イエスは徒労に賭ける愛を生きられた。しかし、その愛は普遍的な愛へと高められた。小さな愛が普遍に繋がることを信じるのが信仰であろう。