牧師室より

私はバングラデッシュ、フィリピン、ブラジルのスラムを知る機会を得た。しかし、難民キャンプには行ったことがない。難民は貧しい上に政治的圧力が加えられ、出口が見えず、どんなにか息苦しいだろうかと想像する。ガッサーン・カナファーニーの「ハイファーに戻って、太陽の男」などの小説集が翻訳、出版された。ガッサーン氏はパレスチナで生まれ、有名なデイルヤーシン村虐殺事件によって難民となり、シリアのダマスカスでキャンプ生活を送る。その後、政治活動を始め、パレスチナ解放人民戦線のスポークスマンとして活躍しながら、小説、戯曲などを書いていたが、36歳の時、自動車にしかけられた爆弾によって暗殺される。小説集はガッサーン氏の体験した難民キャンプの模様をリアルに伝えている。

「何がいまわしいかって、自分に『それじゃあ』っていう先のことが、からっきし与えられてねえってことがわかったときくらい、無残なことはねえですよ。気が狂うんじゃないかと思うくらい、うちのめされちまいますよ。『これで生きているっていえるか?これなら、死んだ方がましだ。』」出口がなければ、自爆して一矢報いたいという自暴自棄も理解できなくもない。

彼らを底知れぬ虚無に追い込む暴力装置で自らの生だけを求める人間の罪深さに慄然とする。