牧師室より

評判になっている中谷巌氏の「資本主義はなぜ自壊したのか 『日本』再生への提言」を読んだ。

中谷氏は若い頃、米国の大学に留学し、開かれた合理主義と自由主義に根ざした豊かさと活力に魅せられ、虜になった。帰国後は、大学で学生たちに自由主義経済の有効性を力説し、政府の「改革政策」を強力に推し進めていた。ところが、米国のサブプライムローン問題から発した金融危機は世界中に計り知れない被害を広げている。この現実を見て、中谷氏は「グローバル資本主義は、世界経済活性化の切り札であると同時に、世界経済の不安定化、所得や富の格差拡大、地球環境破壊など、人間社会にさまざまな『負の効果』をもたらす主犯人でもある。そして、グローバル資本が『自由』を獲得すればするほど、この傾向は助長される」という見解に変えた。それを「かつて筆者も『改革』の一翼を担った経歴を持つ。その意味で本書は自戒の念を込めて書かれた『懺悔の書』でもある」と言っている。学者が前説を翻し、謝るというのは珍しい。

中谷氏の文化論には承服できないことが多々あるが、グローバル資本主義が混乱、荒廃、破壊を生み出していった分析は納得できる。資本力、科学力、政治力(情報の収集と発信)が圧倒的に違う間柄において対等な自由競争をしたら勝敗は決まっている。著しい格差が生じ、そこに人心の荒廃が生まれるのは当然であろう。経済評論家の内橋克人氏などは当初から、歯止めのない競争主義や飽くことのない欲望に対し警告の発言をしていた。

共産主義が崩壊し、資本主義がモンスター化した。人と人、立場と立場、国と国の間が分断されてしまった。この分断から他を受け入れ合う信頼関係にどのように回復させることができるのか。金持ちを勝者、貧しい者を敗者と見なす単一的な価値観から、豊かでなくとも、愛する仲間と楽しく暮らす喜び、自分らしい生きがいを見出す。そんな人間らしさが求められる時代にきているのではないか。