◇牧師室より◇
マーチィン・ルーサー・キング牧師は1968年4月4日に暗殺された。その前日の3日にメンフィスのメイソン監督記念聖堂で最後の説教を下記のように語っている。「私はただ神のみ心を行いたいだけです。神は私に山に登ることをお許しになりました。私は辺りを見回しました。そして約束の地を見てきました。私は皆さんと一緒にはそこに行けないかもしれません。しかし私は皆さんに、われわれは一つの民としてそこに行くのだということを、知って欲しいと思います。私は何も心配していません。私の目が主の来臨の栄光を見たのですから」。キング牧師は、ピスガの山頂に立つモーセの心境で語っている。
モーセは奴隷であったイスラエル人を出エジプトさせ、40年間荒れ野をさまよい、苦悩と苦闘を重ね続けた。ようやく、神が与えてくださる乳と蜜の流れる約束の地・カナンの近くまで来た時、神はカナンを望むことのできるピスガの山頂にモーセを招き、見せる。そして「これがあなたの子孫に与えると(中略)誓った土地である。わたしはあなたにそれを自分の目で見るようにした。あなたはしかし、そこに渡って行くことはできない」と言われる。モーセの苦労を思えばあまりに残酷である。しかし、モーセは神の言葉を受け入れ、この地で死に、墓さえない。
キング牧師は「私には夢がある」と語った、肌の色の違いを超えて同じテーブルに一緒に座ることができる、約束の地を山の上から確かに見た。見たけれども、モーセがカナンに入れなかったように、キング牧師も夢を体験できずに暗殺された。
ところが40年後、黒人のバラク・フセイン・オバマ氏が米国の最高責任者の大統領に就任した。世界のリーダーでもある。オバマ氏はキング牧師がいなければ大統領にはならなかったであろうと言っているが、キング牧師の夢がオバマ大統領を生み出したと言えよう。黒人たちの喜びと感激は察して余りある。彼らの深い忍耐と強い努力があった。そして歴史の進化を信じたい。
ブッシュ政権に対する反動からか、オバマ大統領への期待はいやが上にも盛り上がっている。大統領の就任式は寒さを吹き飛ばし、熱気に溢れていた。期待が大きすぎて潰れはしないかと逆に心配になる。
米国は多民族国家である。その国をオバマ大統領は「WE ARE ONE(我々は一つ)」と言っている。そうであるならば、世界が一つになるという進化する「夢」も持っていいのではないか。