◇牧師室より◇

米国の大統領選挙は民主党のアフリカ系(黒人)のバラク・オバマ氏が圧勝した。公民権獲得運動を闘っていたマルティン・ルーサー・キング牧師1963年に「私は夢を持っています。それはいつの日かジョージアの赤土の上で、昔の奴隷の子孫と昔の奴隷主の子孫とが兄弟愛のテーブルに一緒に座ることができるようになるだろうという夢です」と語った夢が一歩前進したことに間違いない。黒人の閣僚は何人かいたが、大統領は始めてで画期的な出来事である。新聞やテレビで選挙戦を観ていて、国民が自分のこととして主体的に関わる情熱と若さを羨ましく感じた。相当のネガティブキャンペーンもあったらしいが、候補者のスピーチは分かりやすく、好感が持てる。

オバマ氏は「CHANGE(変革)」を訴え続けた。米国民は黒人大統領を選んだのだから「変わった」と言えるだろう。しかし、オバマ氏が語る変革の内容はまだ見えていない。私は二つの変革を期待している。

1991年にソ連邦が崩壊した時、米国による一極支配になるのではないかと懸念された。確かに軍事的プレゼンスを世界に広げ、現在はアフガニスタン・イラクで理不尽な住民虐殺を続けている。気に入らない国を「ならず者国家」と切り捨てるが、「ブッシュ大統領こそテロリストだ」が真実ではないのか。力を奢って独善的にならず、国際協調の下で、他国を尊重し、平和と共存を生み出す「変革」を期待したい。

共産主義体制が崩壊した時、自由主義体制が勝ったと多くの人が思った。しかし、今回の米国発の金融危機は弱肉強食の市場原理主義がもたらしたに違いない。実態経済に大きな傷を残し、株などしたことのない貧しく弱い人々が失業などに追い込まれる悲劇を起こした。米国経済を主導していたFRBの前議長・グリーンスパン氏は株式市場を「根拠なき熱狂」と言っていたが、協調と倫理のない自由主義は自らが崩壊していくことを示したのではないか。歯止めのないグローバリゼイションの発信を「変革」してもらいたい。

日本は米国の言いなりになってきた。オバマ氏の大統領就任を機に、本当の隣人として、世界の将来のために言うべきことを言う良い関係を築いてもらいたいと切望する。