◇牧師室より◇

姜尚中氏は政治学・政治思想史の学者であるが、ご自分の実存について少なからず書いておられる。評判になっている「悩む力」は姜氏の内面史が著わされて、興味深かった。結論は下記の言葉に要約されよう。「他者を承認することは、自分を曲げることではありません。自分が相手を承認して、自分も相手に承認される。そこからもらった力で、私は私として生きていけるようになったと思います。私が私であることの意味が確信できたと思います。

そして、私が私として生きていく意味を確信したら、心が開けてきました。…… 私は意味を確認している人はうつにならないと思っています。だから、悩むこと大いにけっこうで、確信できるまで大いに悩んだらいいのです。中途半端にしないで、まじめに悩みぬく。そこに、その人なりの何らかの解答があると私は信じています。」

姜氏の考えに賛成である。最近は「癒し」という言葉があふれている。確かに「癒されたい」思いは理解できるが、安直に癒される前にもっと真剣に悩んだ方がいい。

面白かったのは「終章 老いて『最強』たれ」であった。2014年には4人に1人が65歳以上になる高齢社会が来る。この老人たちは「権威主義的でも保守的」でもなく「撹乱する力」を持つようになる。その力が閉塞状況の社会を変革するのではないか。更に、死に対する恐怖はあるが、老人は「死を引き受けてやろう」とする心構えができてくる。そうなれば、「世の中に恐いものなどあるものか」という心境になる。まじめに考え、悩みぬいて、恐いものがなくなる。そこで、突き抜けた「横着」に達する。姜氏は「悩みつづけて、悩みの果てに突き抜けたら、横着になってほしい。そんな新しい破壊力がないと、いまの日本は変わらないし、未来も明るくない、と思うのです。」と結んでいる。

日本の社会は今まで経験したことのない老人パワーを蓄積することになる。企業は心の中まで、買い取ってきた。そこからフリーになった老人たちは率直に物を言い、恐れることなく行動するようになる。この老人パワーは効率性と利便性を求めてきた社会を打ち破り、新しい文化を創造する力になるのではないか。