牧師室より

ワーキングプアといわれる若者たちの間で小林多喜二の「蟹工船」がよく読まれているという。中学生時代、社会科の先生の影響を受けてプロレタリア文学を熱心に読んだ。改めて「蟹工船」を読んでみた。

オホーツク海の荒海で、閉ざされた「蟹工船」が操業する。船に会社から派遣された無慈悲な監督がいる。彼は利益を上げ、自分の成功のためなら何でもする男である。「蟹工船」に乗り込んでいる貧しい季節労働者を強権で支配する。暴力的な刑罰を伴って労働をさせ、過酷な残業を強い、病人を放置し、死人が出ても礼を尽くさない。堪りかねた労働者たちは団結して、ストライキを行い、改善を要求する。受け入れられると思った時、駆逐艦が来て武装した水兵が乗り込んでくる。味方が来たと喜ぶが、実は水兵は資本家の護衛にすぎない。巨大な資本と帝国の前に無残に敗れ去ったけれども、団結の力を知り「もう一度」と立ち上がろうとする労働者の声で小説は終わる。小林多喜二は共産主義に近づき、その運動に加わっていった。29歳の時、特高警察に逮捕され、拷問によって虐殺された。

 ワーキングプアの若者たちは、「蟹工船」の非人間的な労働環境と低い賃金に自分たちの生活を重ね合わせているのだろう。また、労働者の団結には力があり、その力を表していきたいという望みをこの小説に見ているのではないか。今日、労働者は分断され、自分たちを守るための労働運動はできなくなっている。労働者が働きがいを持ち、技術を継承することによって、安心した国民生活が成り立っていくと思う。