牧師室より

パレスチナとイスラエルの争いは世界の紛争の根源であると言われるほど根深い。イスラエルは米国で大きな力を持つユダヤ人たちに後押しされて、強力な武力を背景に国造りを進めていった。それは、先住民であったパレスチナ人を圧迫、排除するものであった。占領と分断は今も続いている。テロリストへの攻撃という名目でロケット弾を一般住宅に打ち込んでいるし、狙撃兵による無差別な殺害もしている。占領地とした所ではブルドーザーで家の壁を壊し、畑のオリーブを根こそぎにし、生活できないようにして追い出す。巨大な壁と検問所を作って、交流を分断し、治療のための病人さえ自由に運ばせない。ドイツ・ナチズムからされたホロコーストをパレスチナ人にしていると言われている。

これらの仕打ちについて被害者のパレスチナ側からかなり発信されている。ところが、加害者側からの証言も出始めた。2004年に、元イスラエル軍の若い将兵たちのグループが「沈黙を破る―戦闘兵士(コンバット・ソルジャー)がヘブロンを語る」と題された写真展を開いた。これは、将兵たちによる加害者側からの証言である。「沈黙を破る」グループは以後、国内外で関心を集め、広く知られるようになった。

フリージャーナリストの土井敏邦氏が今年の5月に「沈黙を破る 元イスラエル軍将兵が語る“占領„」を翻訳・出版した。胸を打つ正直な証言で、私は下記の言葉が心に深く残った。「多くのイスラエル人は『セキュリテイー(治安・安全保障)』と口をそろえて言います。自分たちの国を守らなければならない、と。しかしこの国がまもなく、まともな国ではなくなってしまうことに気づいてはいない。そのうち私たちのすべての国民の魂が死んでしまうのです。社会の深いところが死んでしまいつつあるのです。そのことはここイスラエルで、社会全体に広がっています。」

力を持つ強い者が弱い者を圧迫、排除する加害者になる。その加害者も人を理不尽に害することによって実は内面から崩壊していくというのは真実であろう。クリスチャンは主イエスを十字架につけた加害者であることを告白する信仰に生きている。自らの加害者性を認識する者が真の「共生」を生み出していくのではないか。