牧師室より

小井沼ご夫妻が牧師になってブラジルに宣教師として赴任されたことで、私は南米を身近に感じるようになった。小井沼宣教師を訪ねてブラジルに行った時、瀑布で有名なイグアスを案内してくれた。その時、ブラジルとアルゼンチンとパラグアイの三国が見えるという所に立った。アルゼンチンとパラグアイはブラジルに比べると貧しいという説明であった。

パラグアイは61年間も保守政党が政権を握り続けていたが、中道左派連合のエルナンド・ルゴ氏が大統領に当選した。この国も少数の地主が農地を握り、多くの国民は貧困にあえぐ、植民地支配の後遺症が典型的に見られる国である。ルゴ氏は抑圧された人々の救済を目指すべきだとする「解放の神学」に強い影響を受けた「貧者の司教」と言われた神父であった。土地のない農民と共に運動をする中で神父の地位を捨てて政治の世界に飛び込んだ。当選後、「右派でも左派でもなく、貧しい人々への約束を守りたい」と演説したという。「解放の神学」は低迷していると言われているが、貧しい人々の間に深く根付いている。

南米はかつて「米国の裏庭」と言われていた。米国の傀儡政権で、米国から収奪される状況に甘んじていた。しかし、最近の南米は米国離れを起こしている。痛めつけられたことへの激しい反発であろう。路線は反米主義と資源ナショナリズムを掲げるベネズエラや穏健な自立を進めるブラジルなど多様であるが、現在、親米政権はコロンビアの一国だけになった。

南米は石油、鉱物資源、そして農産物などに恵まれている。これから世界の中で発言権と存在感が増してくる。経済のグローバル化を押しつける米国支配から抜け出ようとする南米の歩みは興味津々である。

EU(ヨーロッパ連合)は内側に様々な問題をはらんでいるが、経済的利益を共有し、平和を模索する世界の未来を先取りしていることは確かであろう。加盟を希望する国々が後に続いている。次の国家間の連合は、反米・自立を目指す南米ではないかと期待する。

特別豊かでなくとも、安心して生活できる状況が平和(共生)を作り出していく。社会に染みついた腐敗風土が根深くあるだろうが、ルゴ大統領の貧しい国民に応える政治に期待したい。