牧師室より

沖縄の「集団自決」に軍の関与や命令はなかったと教科書を修正したことに沖縄県民の怒りは頂点に達し、11万人の大抗議集会があった。島々から船を出し、無料で参加者を会場に運んだ。集会後も続々と押し寄せてきたという。

集団自決は鎌や鉈で殺し合ったケースもあるが、手榴弾を用いている。民間人は手榴弾など持っていない。軍から配られたものである。また、多くの証言や当時の状況から、軍の関与と命令は明らかである。事実を捻じ曲げ、従軍慰安婦問題などは他国から非難されながらも、日本軍の名誉回復を求める意図は何か。ジャーナリストの安田浩一氏は雑誌「世界」で興味深い報告をしている。

教科書会社・三省堂は「日本軍に『集団自決』を強いられたり」を「追いつめられて『集団自決』したり」と修正した。清水書院は「なかには日本軍に集団自決を強制された人もいた」から「中には集団自決に追い込まれた人々もいた」と修正した。軍の関与がすっぽりと抜け落ちている。教科書会社は文部官僚の修正への強い意志を感じたと述懐している。

南京虐殺はなかった、従軍慰安婦は商業行為であったとする「新しい教科書をつくる会」のメンバーは3人の沖縄住民から軍の命令はなかったという証言を得て、それを画期的な成果として強調している。

その「つくる会」と密接な関係にある人が文科省の教科書を担当する調査官で、彼が修正を迫ったそうである。また、安倍前首相は「戦後レジームからの脱却」や「憲法改定」を声高かに叫んでいた。彼の周りにはいわゆる「自虐史観」を否定する右翼的なブレーンが集まっていた。安田氏は、今回の教科書修正の源流は「安倍官邸主導」ではないかと分析している。

「世界」の同月号に80歳の方が「日本軍か皇軍か」と題して投書している。皇軍とはもちろん「天皇の軍隊」という意味である。軍隊は天皇のもの、天皇のために死ぬことを至上の価値とした。武器には菊の紋がついていて兵士の命より大事とされた。投書者は、当時「日本軍」とは言わず「皇軍」と言っていた、教科書を始め、記録や論説などでも「皇軍」と明記すべきであると主張している。

日本軍の名誉回復を求める意図は「皇軍」の不名誉を認めないということではないか。極端なアナクロニズムだが、論旨は通る。事実、ある人々は「皇軍の名誉を回復する」という文言を使っている。どの国にも「原理主義者」はいるようだ。