牧師室より

山本譲司氏の「累犯障害者 獄の中の不条理」を読んでショックを受けた。国会議員であった山本氏は政策秘書給与詐欺で有罪判決を受け、433日間服役した。出所後、福祉関係で素晴らしい働きをしているとテレビで見、新聞の寄稿でも読んだことがある。山本氏は刑務所内で多くの障害者と出会った。その後の様々な調査から障害者と犯罪の悲しい実情を伝えている。

2004年の新受刑者は32,090名でその3割弱が知的障害者である。一度刑務所に入ると福祉との関係が切れ、再犯で入所してくる。知的障害のある受刑者の7割が再入所し、10回以上入所してくる者は2割もあるという。山本氏は、知的障害者がその特質として犯罪を惹起しやすいのでは決してないと力説している。彼らは善悪の判断が定かでない。また、反社会的な行動で検挙された場合、警察の取り調べや法廷においても、自分を守る言葉を持たない。更に、反省の言葉がないと些細な犯罪でも実刑を受けることになる。これは聾唖者においても同じで、いくつかの残酷な事例を紹介している。

障害者は家族から見放される場合が多い。そのような障害者何人かと養子縁組をして、障害者年金と生活保護費を巻き上げるヤクザもいる。彼らは素直で、事情が分からないから優しい言葉にすぐ乗ってしまう。

重度の知的障害を持つ女性は16歳から売春をし、彼女の母親も知的障害で同じ生き方をしてきた。彼女たちに売春の罪悪感はない。風俗へ勧誘するグループもある。働いたお金の全てを取られても、彼女たちは不平を言わない。セックスが生きがいになっている。それは、その時だけが人間らしく扱ってもらえるからである。

「俺ね、これまで生きてきたなかで、ここが一番暮らしやすかったと思っているんだよ」、また「山本さん、俺たち障害者はね、生まれた時から罰を受けているようなもんなんだよ。だから罰を受ける場所は、どこだっていいんだ。どうせ帰る場所もないし…。また刑務所の中で過ごせばいいや」という受刑者の言葉を伝えている。出所しても、引き取り手がなく、ホームレス、閉鎖病棟、自殺、変死という道を辿る人が多いという。

自由も尊厳もない刑務所のほうが暮らし易いと語る彼らにとって「塀の外」はそれほど過酷なのである。刑務所内外を行き来する障害者の実態を始めて知って、社会的な弱者を差別、排除する人間の罪深さを今更ながら、思った。