牧師室より

小学校の音楽教諭が、入学式の「君が代斉唱」でピアノの伴奏を校長から命じられた。教諭は「君が代は過去の侵略戦争と結びついているので弾けない」と断った。東京都教育委員会は職務命令違反として「戒告処分」を出した。教諭は「憲法で保障された思想、良心の自由を侵害する違法である」として、処分の取り消しを求めていた。

最高裁第三小法廷(以下−第三小法廷)は、この訴えに対し「公務員は全体の奉仕者。学習指導要領で入学式などでの国歌斉唱を定め、ピアノ伴奏はこの趣旨にかなうから、職務命令は合憲だ」と判決した。第三小法廷は「君が代が過去の日本のアジア侵略と結びついている」とする教諭の歴史観を否定しない、また特定の思想を持つことを強制・禁止したり、思想の有無の告白を強要したりするものではないとしている。しかし、君が代斉唱が広く行われている現在、公務員は法令や職務命令に従わなければならない立場にあるという。「学校の秩序」の公共性が優先され、「思想、良心の自由」が置き去りにされた判決である。

第三小法廷の5人の裁判官は激論を交わしたらしい。その中で、藤田宙靖裁判官は「ピアノ伴奏は信条に照らして教諭にとって極めて苦痛なこと。それにもかかわらず強制することが許されるかどうか」が真の問題で「君が代の斉唱の強制自体に強く反対する信条を抱く者に、公的儀式での協力を強制することが、当人の信条そのものへの直接的抑圧になることは明白」として高裁に差し戻すべきであるという少数意見を出している。

判決後、教諭は「1年に2回だけ、40秒、心を閉ざし、ロボットになって弾いてしまえば裁判に労力も使わず、校長先生や教育委員会の覚えもいいのに」と自問したが、「音楽や教育が心を国に束ねられるために使われることは、私の音楽や教育への思いに反する」と拒否を貫いてきたと語っている。

君が代斉唱の時、起立しない教諭に対し300人以上が処分され、処分撤回を求め、各地で訴訟が起きている。第三小法廷の判決がどのような影響を与えるかが心配である。

自由のない管理・強制の下では教育目標を果たせない、また君が代斉唱は主権在民の否定ではないか。