牧師室より

ジャーナリストの故・松井やより氏や平和聖日の説教と講演に来てくださったS氏らが国際的な法学者を招いて2000年に「国際戦犯法廷」を開催した。この法廷をNHK教育テレビが取り上げ、ドキュメンタリー「ETV2001 問われる戦時性暴力」を放映した。私は、国際戦犯法廷を記録したビデオとNHKのドキュメンタリーの両方を観たが、その違いに驚いた。

「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」(バウネットジャパン)がNHKは放映直前に改変したとして提訴した。一審の東京地裁は、下請け製作の「NHKエンタープライズ21」(当時)と孫受け取材にあたった「ドキュメンタリージャパン」(DJ)に賠償責任があるとし、DJ100万円の支払いを命じた。

その後、NHKの担当デスクが「放映前に、NHK幹部が国会議員を訪ね、番組が改変された」と涙ながらの内部告発をした。

 二審の東京高裁は政治家の報道介入があったかどうかが争点になった。東京高裁は「製作に携わる者の方針を離れて、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度(そんたく)し、当り障りのないよう番組を改変した」と指摘し、また「憲法で保障された編集の権限を乱用または逸脱した」と述べ、NHK200万円の支払いを命じた。忖度とは「他人の心中を推し量ること」で、国会議員の発言を推し量って改変したということである。NHK幹部は当時の安倍晋三官房副長官に会い、「公正・中立の立場で報道すべきではないか」との発言を受けた。しかし、東京高裁はこの発言が政治家の報道介入とは認めなかった。

S氏からの喜びのメールがきた。「ようやく『勝訴』を勝ち取ることができました。負けたら何と云おうかと考えながら法廷に行きましたので、『一審の判決を変更する。NHK200万円』と聞いた途端、信じられない気持ちとともに、あの裁判所の庭で1回は手を上げて喜んでみたいと思っていたので思わず両手を上げて走りました。」

今日、「公正・中立の報道」と言った場合、権力者寄りの報道を意味する。この言葉で忖度するのであれば、ジャーナリズムに値しない。NHK側は即刻上告した。