牧師室より

中国残留日本人孤児に対し、神戸地裁の橋詰均裁判長は、国に賠償命令の判決を出した。当然の判決であり、本当に嬉しく思っている。

戦前、国は食料増産を目的に中国東北部(旧満州)に開拓団を大々的に送り込んだ。敗戦が迫った時、彼らを守るべき関東軍はいなくなっていた。無防備の民間人はソ連軍と中国人によって多くの人が殺され、地獄の逃避行を強いられた。生き延びることを信じて子どもたちを捨て、また中国人に預けた。彼らは文化大革命の時も、日本人であるために過酷な仕打ちを受けた。二重、三重の苦しみに耐え抜いて帰国した。しかし、言葉と生活習慣の違いで、なかなか定職につけない。生活保護を受けながら最低限の生活をしている。中国の養父母の見舞いや墓参にも行けない。2千人以上の残留孤児が、国が敗戦後の速やかな帰国措置や帰国後の自立支援を怠ったとして、15地裁、1高裁で争っている。

昨年7月の大阪地裁は原告の請求を棄却した。敗戦時13歳以上で、残留婦人と言われる方々の提訴も、今年2月の東京地裁で敗訴した。今回、初めて残留孤児に光が当てられた。彼らはどんなに喜んでいるだろうか。高齢になっている彼らを二度目の「棄民」にしてはならない。国は判決を真摯に受け止め、早く結審してほしい。

橋詰裁判長は北朝鮮拉致被害者と比較して下記のように判決している。「拉致被害者が永住帰国後、5年を限度として生活保護より高水準の給付金や、きめ細やかな就労支援を受けているのに、残留孤児への支援策は生活保護の受給を永住帰国後1年をめどとするなど極めて貧弱だ。」

私は、この判決文を高く評価している。拉致被害者も国が守れなかった責任がある。彼らへの手厚い支援は納得できる。一方の残留孤児は国策に従って中国に行った。そして、素手のまま放置された。国は加害責任がある。残留孤児への加害に対して、国は謝罪と全面的な責任を負うべきではないか。