牧師室より

山本譲司氏は衆議院議員の在任中、秘書給与詐欺事件で起訴され、12カ月服役した。出所後、障害者福祉施設で懸命に働いているというテレビ報道を見たことがあった。その山本氏が、朝日新聞の「憲法ってなに?自民党案を読む 人権」と題するコラムに投稿していた。

山本氏は栃木県の羽黒刑務所に服役中、障害を持つ人々の世話係をした。そこで、日本はとんでもない国になっていると実感したという。

知的障害、精神障害、認知症(痴呆症)などのハンディを持つ彼らは、法律の未整備や差別のために、社会から排除され、犯さずにすんだであろう無銭飲食や置き引きなどの微罪を繰り返し、入所してくる。彼らの何人もが、満期出所の前に「これまで生きてきた中で刑務所が一番暮らしやすかった」「社会に出て行くのが恐い」と言われる。

山本氏は学生時代から福祉問題に関心を持ち、日雇い労働者の集る山谷に通い、インドのカースト制度の最底辺に生きる人々の集落に泊まり込んだこともある。そして、議員時代も福祉問題に取り組んできたつもりであった。しかし、障害を持つ受刑者の実態に触れて、この国の弱者が置かれている現実を何も知らなかったと述懐している。

自民党の憲法草案の第2次案には「心身の障害がある者は、差別されることなく、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利を有する」とあったが、最終案では削除され、憲法14条「法の下の平等」規定で「障害の有無」で差別されないと大きく後退していると指摘している。更に、憲法982項には、条約や国際規定を誠実に守ると定めているが、女性差別撤廃や難民の保護、子どもの人権など、真に守られている社会でしょうかと書いている。

最後の訴えを紹介したい。「憲法はもともと、人権保障の仕組みです。人権保障のためにどんな政策や法整備が必要か。そのうえで、憲法を変えるとすればどうすればいいのか。きちんとした検証をしながら、さらに憲法議論を深めていくことが必要だと思います。」

筑紫哲也氏は、現憲法が歓迎されたのは戦前、戦中の抑圧から解放され、新しい時代が来るという「保証書」を見たからで、それに対し、今回の自民党の草案には、新しい歴史を構築する理念も理想もないと批判している。憲法9条を改定し、米軍支援体制を作ることに主眼があり、そのために、全体的に権力を規制すべき法が、逆転して、国が国民を規制する方向に向かっている。

山本氏が書いているように、社会的な弱者がどのように守られるべきかから法体系を作り上げてほしいと思う。その時、この国を愛し、守るという国民感情は盛り上がってくる。