牧師室よ

米国を襲ったハリケーンは米国社会の実態を暴露することとなった。米谷ふみ子氏は、着飾った貴婦人のはらわたが流れ出たような姿であると譬えていたが、貧富の格差を改めて見せつけられた。

日本は総中流と言われていたが、それは20数年前の話で、現在の貧富の格差は米国並ではないか。「福音と世界−11月号」に、日本社会臨床学会運営委員の佐々木賢氏は下記のように書いている。

エリートになれるのは千人に1人(A層)、それなりの生活が保障される職種に就くのが3分の1(B層)、残りの3分の2は過剰労働を強いられる社員か、派遣や契約社員か、フリーターになり、それがいやならニートになる(C層)。この三層に分けられ、A層が巨額の収入を得ているため、C層が増えている。逆に言えば、C層がA層を支えているということである。多くの若者に職がない、あっても労働条件が過酷であったり、賃金も安く、将来への保障がない。

世界の労働市場はもっと残酷である。25千万人の5歳から17歳までの子どもたちが、「汗の工場」と呼ばれる劣悪な所で、時給6円程度で働いている。このような労働で製品が作られ、米国など、先進国の大手スーパーで売られている。

子どもや若者を悲惨な状況に放置し、労働意欲を失わせているのは、新自由主義を唱えるグローバル経済の結果である。グローバル経済の3要素は「外注」「規制緩和」「民営化」であるが、この言葉は実態を示していない。「外注」はリストラと短期雇用化を促し、「規制緩和」と「民営化」は社会保障を減らし、私企業に丸投げすることを意味している。

経済評論家の内橋克人氏は「世界−11月号」で「失われた『人間の国』」という講演の中で、格差の拡大は収入・資産の次元だけではなく、「生存リスク格差」が世界規模で拡大していると指摘している。グローバル経済は、世の中を良くしていくように聞こえる「改革」という言葉で、人間を排除し、生存権さえ奪う力として世界中を闊歩している。佐々木氏も内橋氏も対案は提示していない。できないであろう。

イエス・キリストが5つのパンと2匹の魚で5千人に食べさせ、満腹させたという奇跡が「神の国」のリアリティ−として眩しく見える。また、韓国の詩人・金芝河の「飯が天です/飯が口に入るとき/天を体に迎えます/飯が天です/ああ 飯は/みんながたがいに分かち食べるもの」という詩の「共にある」真実を思う。