牧師室より

海外に住む日本人の国政選挙での投票権は認められているものと思っていた。手続きが煩雑で投票率は高くないと聞いていた。ところが実際は、1998年の公選法改正で、衆議院と参議院の比例区だけに投票権が与えられ、選挙区選挙には認められていない。在外邦人の有権者数は推定で約72万人がいる。米国、ドイツ、英国などに住む13名の原告が選挙権の行使を国内在住者と同じでないことは憲法に違反すると、提訴し10年になる。一審、二審は提訴自体が非適法であると退けられていた。先日、最高裁大法廷で、双方の意見を聞く弁論を開いた。

原告側は「インターネットなどで海外でも、国内と同じ情報を入手できる、選挙権行使の制限は憲法の解釈を誤っている」と主張した。国側は「限られた選挙運動期間内に投票に不可欠な情報を周知徹底することは困難で、海外の有権者が当分の間、選挙区選挙で選挙権を行使できないことは、必要かつやむを得ない制約である」と反論した。

権利は最大限に認められるべきである。権利の放棄はその人の責任であるが、権利の制限は民主主義に反する。また在外邦人にとっては、国政のあり方が生活に敏感に響いてくるのではないかと思う。

原告団事務局長は米ロサンゼルス在住の経営コンサルタントをしているW.T氏という方で、教会員O姉の弟さんである。W氏は新聞で次のように語っている。「私たち在外邦人は、日本政府の対応によって、日々のビジネスや生活に直接・間接に影響を受けている。国内にいたとき以上に、日本の情勢に気を配って生活している。『日本は外から見るとこう見えますよ』『外国人は日本をこう見ていますよ』ということを国政に反映できれば、日本にとっても自分たちにとっても役立つと考える。」「急速に経済が発展し、大勢の日本国民が海外に住むようになった現状に、適切な法改正を行なってこなかった国会は、怠慢だったといえるのではないか。」また、著書の中で「世の中の変化はごく少数の人の強烈な思いから起きる」という言葉が印象的である。

W氏の主張を全面的に支持し、10年に及ぶ裁判闘争の労苦に心から敬意を表する。法曹界では違法との見方が有力であるという。最高裁大法廷の人権を尊重する判決を期待したい。