牧師室より

中国で反日運動が激しく起こった。この問題について、私の友人の奥様が新聞に投書していた。彼女は18年間、中国人学生や留学生に日本語を教え、教え子は数百人にもなる。その彼らは12年前から「親日の思いから、反日感情を持つ友達を説得してきたが、日本が分からなくなった」、小泉首相の靖国神社参拝や、歴史認識が偏った教科書を検定合格させ、政治家たちは中国人感情を逆なでする言動を繰り返すので「日本は本当に友好関係を築きたいのか、信じられなくなった」という。

彼女は、中国国民の抗議の重大さに気付き、誠意と謙虚さを持って対応しないと、中国との関係で取り返しがつかなくなると憂慮している。表面的な現象だけをとらえて、中国政府に謝罪を求めるのでは、問題は解決しない。反日感情は戦後60年間、うっせきしたものがあるとご自分の体験から書いている。

人も国家も自分の側のことしか見えない。しかし、反対側の立場から考え、想像することが必要である。ドイツの首相が敬意を込めてヒットラーの墓参りに行ったら、ヨーロッパ中が怒り狂うだろう。日本の中国侵略と軍などによる蛮行は忘れられるはずがない。歴史を歪曲し消し去り、何事もなかったかのように教科書に書かれ、子どもたちに伝えられたら、はらわたが煮えくりかえるような思いに駆られるだろう。そのような日本が世界をリードする国連の常任理事国になると言えば「ノー」と叫ぶのは当然ではないか。

「福音と世界」に、一条英俊氏が「大東亜書翰と『バルト神学』」を掲載している。大東亜書翰とは「日本基督教団より大東亜共栄圏に在る基督教徒に送る書翰」で、日本が占領していた諸国のキリスト教徒に、天皇の世界救済事業(大東亜戦争)に信仰的決断を持って協力するように呼びかけた手紙である。その書翰に、なんとナチズムと対決したカール・バルトの注解書からの引用があると分析、紹介している。全く逆の方向を向いているバルトの言葉を利用しているのには、驚き入った。

一条氏は、冒頭に「罪を隠している者は栄えない。告白して罪を捨てる者は憐れみを受ける」(箴言2922)を掲げている。過ちを率直に認める者(国)が真の友だちを得る。その謝罪は実際行動が伴って始めて信頼されるものとなり得る。