◇牧師室より◇

 「中国残留孤児」の永住帰国者の内、7割の人々が適切な生活支援を受けられなかったと国に対し損害賠償を求める裁判を起こしている。残留孤児になったのは農業生産拡大のため、政府の強い要請によって中国奥地の開拓団として行った人々が多い。敗戦前、守るべき関東軍は撤退し、ソ連軍が参戦してきた。港に向けての逃亡を強いられたが、悲惨を極めた。その途中、子供たちだけは何とか生かしたいと中国人に預けた。彼らは私とほぼ同年代である。

 私の父は自分で生活を求めて中国に渡った。私は大連という港町で生まれた。父は44歳の時、徴兵されたが、3日目に敗戦を迎え戦場には行かずにすんだ。この二つが幸いしたが、場合によっては私も残留孤児になった可能性があった。残留孤児問題は他人事のようには思えない。

 帰国者は日本語が不自由で仕事についていけない。月額11万円の生活保護で暮らさざるを得ない。中国の養父母の墓参りに行くと、その間の生活費が切られる。65歳からの保障は年金を納めてないから月額3万円であるという。

 北朝鮮の拉致家族たちは言葉に絶する苦労を味わった。誰もが同情する。帰国した彼らへの手厚い支援は納得できる。拉致家族と国は共に被害者である。可能な支援をすべきである。しかし、私は中国からの帰国者への支援があまりに薄いと思う。残留孤児は全くの被害者であるが、国は国策に基づいて彼らを送り込みながら守らなかった加害者である。戦後も長く放置したままであった。加害者である国は拉致家族以上の支援をすべきではないか。被害には敏感に反応するが、加害にはいつものように鈍感な政策しか取っていない。