◇牧師室より◇

 中村哲氏はアフガニスタンの貧民層や難民のため20年にわたり、医療支援活動を行なっている。天皇ご夫妻に招かれ、アフガニスタンの近況報告を2時間半もしたそうである。思わぬところで理解者を得たと驚いておられた。その中村氏が岩波の「世界」に「本当の支援とは何か アフガニスタン『復興』の現実から見る」を寄稿している。最近のメディアは編集、操作され信頼できないものが多いが、中村氏のように命を賭して働く現場からの報告は説得力がある。

 「911」以後、実像とはかけ離れた「正義のアメリカ対悪のタリバン」という国際世論が作られ、米軍と同盟軍の報復爆撃が強行された。テロとは関係のない多くの無辜の人々が犠牲になった。タリバン政権は崩壊し、米軍に擁立された「カルザイ政権」が誕生した。その後「アフガン復興支援会議」が東京で開催され、明るいムードがかもし出された。米国はこれを成功と見て、同じ手段でイラク攻撃に向かった。

 ところが、中村氏は全く違う報告をしている。カルザイ大統領は米軍の特殊部隊に守られ、国家再建の中核となる技術者や知識層の大半は国外にいて、戻る気配はない。12000名の米兵が撤退すれば、カルザイ政権は直ちに崩壊する。その米軍と同盟軍は安全な場所に留まり、危険な戦闘は地元軍閥に負わせている。報復はアフガン社会の掟であり、誤爆や捕虜虐待で殺された犠牲者の肉親は米軍と同盟軍に対し根深い反感を持っている。「解放された自由」とは皮肉にも、売春の自由、暴力の自由、餓死の自由、麻薬栽培の自由である。現在は過去20年で最悪の状態にあり「国家統一」など程遠い、と。

 日本政府は一貫して米国を支持し、追従してきた。中村氏は、国是である平和憲法さえかなぐり捨てて、とんでもない世界に踏み出そうとしていると述べ、「我々は軍(米軍/自衛隊)とセットの『復興』はあり得ない、と繰り返し述べてきた。自衛隊による給水活動や戦闘装備をしたままでの学校修復を『人道支援』と強弁するが、詭弁か茶番に見えるゆえんである」と武装した支援の欺瞞性を厳しく指摘している。今まで、イスラム世界で培われてきた親日感情は薄れ、「日本人です」と胸を張って言えなくなったと嘆いている。

 国民の8割を占める農民は「対テロ戦争」も「復興支援」も関係ない。地球温暖化による雪の減少は深刻な大旱魃を引き起こしている。中村氏たちは用水路の建設に懸命である。その工事現場に米軍ヘリが旋回してきて機銃掃射する。抗議すると「先ず攻撃してから確認する」と豪語するという。

 中村氏は「私たちは次世代に何を遺そうとするのか、真剣に考えるべきである」と結んでいる。