◇牧師室より◇

 福岡地方裁判所の角川清裁判長は小泉首相の靖国神社参拝を「憲法違反」と判決した。政教分離に関する裁判は全国でかなりの数にのぼる。私も「バンザイ訴訟」で原告の一人として関わっている。

 日本国憲法は政教分離原則を厳しく規定している。それは、アジア侵略という戦争遂行のために神道を国教化し、国民の精神的統合を強要したことの反省から政教分離の憲法が生まれたからである。

 靖国神社はもちろん神道宗教で、戦争中、戦死者を「英霊」として合祀する戦争美化の役割を担う、権力が作った神社である。敗戦によって国家神道は消滅し、靖国神社は一宗教法人になった。この神社に公人としての参拝は憲法第203項「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならい」という規定に明らかに違反する。

 戦死者に敬意を表することには全ての人の同意が得られる。彼らの苦難と犠牲の上に平和がもたらされたのだから、感謝と追悼は当然である。それを、国が一宗教の形式で行なってはならない。小泉首相が靖国神社参拝にこだわるのは戦争をする国を目指して法整備を急いでいるところから、新しい英霊の受け入れ準備ではないかと疑ってしまう。「二度と戦争への道を歩むことがあってはならない」などと言ってはいるが、していることは全く逆ではないか。

 靖国神社は1978年に戦争責任者として処刑されたA級戦犯を合祀した。中国、韓国はA級戦犯を祭る靖国神社への参拝は侵略戦争を反省せず、新しい軍国主義の台頭であると反発している。当然の批判であると理解できる。靖国神社参拝は国際問題になっているようだが、「信教の自由」に関わる極めて国内的な問題である。信教の自由は最も深い人格権である。この権利が鋭敏に捉えられるところで、民主主義と平和が確保できる。小泉首相は「わからない」を連発しているが、信教の自由の意味と重さを理解しようとしない。

 福岡地裁の判決は「憲法違反」としたが、原告への損害賠償は却下した。国側が勝訴した訳であるから控訴できない。原告も実質勝ったとし、控訴しない。「憲法違反」が確定することになる。しかし、この判決で決着した訳ではないらしい。