◇牧師室より◇

 特別伝道集会の講師として来てくださった宮田光雄先生が岩波新書から「メルヘンの知恵−ただの人として生きる−」を上梓された。著者代送として出版社から直接贈ってくださった。アンデルセンの「皇帝の新しい着物」とグリムの「いさましいちびの仕立屋」、「ふたりの兄弟」、「死神の名づけ親」の4編の宮田先生らしい読み解きを楽しく読んだ。

 私たちの教会の特別講演会では「只の人として生きる−アンデルセン『はだかの王さま』に学ぶ」と題して講演された。講演の内容を改めて思い出した。

 「裸の王様」は一見すると、見栄っ張りな王様を嘲笑し、追従する家来たちの愚かさを風刺しているように見える。しかし、可笑しいと笑っているうちに、これは自分自身のことではないかと気づかされる。そこに、自分に対する笑い、自己アイロニーを含むユーモアの精神があると語られる。

 王様は私たち自身のことである。私たちは他人から愛され、認められ、仲間に入れてもらえることに多大なエネルギーを使い、特別な存在であり、自信をもっていることを印象づけるために、人を欺き、偽装やお芝居を必死で演じている。しかし、その心の底では、傷つきやすく、自信がなく、不安と焦燥の中にある。この二つの矛盾したあり様が私たちの悲劇的なジレンマである。

 二人の織物ペテン師は嘘つきで非難されるが、最終的には真の自己を示した功労者でもある。家来たちは自己保身と、皆にも綺麗な着物に見えているという「蜃気楼」現象に飲み込まれている。そして、「王様は裸だ」と叫んだ子どもは「下からの視点(ボンフェファー)」で矛盾や問題を鋭く突き、正しい軌道に引き戻し、時代の転換を促す力である。

 宮田先生は「私たちが現にあるところのものにもとづいて生きよ」と言われる。それは「ただの人であること」、「自分は自分であること」に尽きる。そこで、静かな喜びと充足をもって生きていくことができると。