◇牧師室より◇

 スタッズ・ターケル氏が「死について!」というインタビュー集を出している。驚くほど多様な63人が自分の周りで起こった死について語っている。言葉の重みに圧倒された。600頁にも及ぶ大部の本であるが、引き込まれ、また涙して読んだ。

 米国人は開放的で、苦しみと悲しみを率直に表す。そして、それを正面から受け止め、寄り添って分かち合う人がいる。また、挫折しても立ち直り、それを支える社会的土壌がある。これらは羨ましいと思った。

 「死」に関わる辛い経験を語っているが、それは、とりもなおさず自分の「生」について語ることになる。確かなことは死に向き合う時、人は誠実になり、愛に溢れてくることである。それが、この本の感動を呼ぶところであろう。

 広島で被爆した日系米国人女性が子供を連れて、故郷の平和記念資料館を訪れた。大きなスクリーンに原爆を投下した飛行機・エノラ・ゲイが映し出された時、思わず両手を突き出して、しゃくりあげるほど泣きながら「やめて、お願い、やめて」とつぶやいたという。そして「やがて、はっと思いあたりました。ある意味で、エノラ・ゲイはまだ上空にいるのだと…」と語っている。

 アフリカで死に逝くエイズと結核患者に取り囲まれながら、なす術もなく立ちすくんだ医師は「患者は床に寝かされている。わかりますか?薬はまったく手に入らない。わかりますか?」と世界の医療の不均衡を怒り、また「死というのは、われわれにとって教師ではないかと。死は究極の教師で、われわれが助け合うために何をしていないか、教えてくれる気がします」と語っている。

 息子を銃で殺された母親が、ローマ書の「だれに対しても悪に悪を返さず、すべての人の前で善を行なうように心がけなさい。できれば、せめてあなたがたはすべての人と平和に暮らしなさい」というみ言葉から、加害者を許そうと決心する。刑務所を訪ね、彼を許し、「あなたのことを自分の息子のように愛している」と言い、抱きしめる。そして「わたし、確信してるの。もし彼を許さず自分の怒りに固執していたら、きっとわたし自身が心を病んでいただろうって。ひょっとしたら自殺したり、だれかを傷つけたりしたかもしれない。でも、わたしは神様に背中を押されてこういわれているような気がしたの。彼を許しなさい、それこそ、おまえがすべき正しいことだ、って」と語っている。

 人は死について多くを考えている。そして、死は生のあり方を雄弁に指し示してくれる。