◇牧師室より◇

 私は20代後半にうつ病になり、入院や転地治療などで5年ほど苦しんだ。当時は焦りと不安の中でもがき続けた。今はその経験が、精神病患者の苦しみを理解できるという意味において生かされていると感謝している。精神病は他の病気と同じ身体的な疾病であるが、心に関する部分は多い。心の不安や恐怖は言葉化できないところがある。

 教会にかかってくる電話相談の中で精神病に関するものが最も多い。横浜に来て、それらの患者たちのお見舞いで訪ねた精神病院は20院ほどもあろう。私は精神病に関する医療は遅れているのではないかといつも思っている。

 「週刊金曜日」に医療ジャーナリストの中島裕氏が「生まれ変われる?ニッポンの精神科医療」と題して精神科医療の実態を報告している。精神病患者(1999年、厚生省調査)は推定204万人で、その内33万人が入院し、入院患者の4割以上が5年以上入院したままである。病床(ベッド)数を人口比でみれば、欧米の3倍弱、オーストラリアの56倍にのぼっている。精神病患者を治安的視点から、管理・隔離政策を強めた結果である。入院治療が不要でも、家庭や地域に受け皿がないなどの理由で入院させることを「社会的入院」と言っている。厚生労働省は、社会的入院患者72,000人を社会復帰させようと支援事業を始めた。家庭に限界があるなら、受け入れる社会施設の拡大と充実を計って欲しいと熱望する。

 ところが、中島氏の報告によると、入院患者数では全疾病患者の24%を占めていながら、医療費は全体の5%にすぎない。入院患者一人から得る入院報酬は、内科の四分の一に設定されている。精神科は多くの入院患者を抱えて、やっと経営が成り立つ仕組みになっている。この状況が社会的入院患者を増やすことに拍車をかけているという。

 更に、一般病床の場合、医師数は患者16人に一人、看護師数は4人に一人となっているが、精神病床は患者48人に医師一人、看護師数は6人に一人となっている。精神科医は3倍の患者を診ていることになる。患者と向き合える時間は週に35分しかないと書いている。この基準は変えられつつあるが、他科と同じになるには、ほど遠い。精神科は社会的にも、医療的にも、制度的にも明らかに遅れている。

 テレビの討論番組などで、傍若無人に語る人を見ると、この人は「自分が恥ずかしく、消え入りたい」と思ったことはただの一度もないだろうと思ってしまう。精神病患者は「消え入りたい」と感じていることが多い。その彼らが社会に出てきて発言し、働いてくれたら、世の中はより健全になると信じている。マイナス、欠けこそが人間存在の原点を指摘してくれるからである。