◇牧師室より◇

 私たちが起こしている「バンザイ訴訟」に東京高裁の判決が19日に出された。三人の裁判官が着席し、裁判長が聞き取れないような小声で「却下」の判決主文を読み上げた。ものの56秒だった。三人は逃げるように退廷した。弁護士、原告、そして裁判所を埋めた傍聴者たちは唖然とした。横浜地裁の第一審から11年間、闘ってきた。それが56秒で終わった。当然、最高裁判所に控訴する。

 「バンザイ訴訟」は宗教行事である「即位の礼・大嘗祭」に神奈川県知事と県議会議長が公費を使って参加したことが「政教分離」の憲法に違反するとして起こした住民訴訟である。時の海部首相が、高御座(たかみくら)に立つ天皇に対し「バンザイ」と下から叫んだので通称「バンザイ訴訟」と言ってきた。主権は天皇ではなく、国民にあることを問うた裁判である。

 判決に抗議する集会が持たれ、弁護士から判決文の内容が報告された。勝訴は望めなくとも、それなりの理由が聞けると思っていたが、横浜地裁判決に劣るものであると怒りを込めて話された。「大分抜穂の儀違憲訴訟」「鹿児島大嘗祭違憲訴訟」に最高裁は合憲判決を出している。裁判官たちは私たちが問うた問題に耳を貸さず何も考えず、最高裁に追従したのであろう。

 控訴人一同で下記のような抗議声明(抜粋)を出した。「今回の判決が、19974月の愛媛玉串料違憲訴訟に対する最高裁大法廷違憲判決の判例を無視し、同判決における政教分離規定の厳格な適用を避け、即位礼・大嘗祭が明白な宗教儀式であるにもかかわらず、目的効果基準を恣意的に適用し、合憲判断に導いている事に抗議する。」

 米国ではマッカーシズムの時代、星条旗への忠誠の誓いの中に「神の下に」という文言を付け加えた。これを公立学校で唱えさせられるのは政教分離の原則に反すると、ある無神論者が提訴した。米連邦控訴裁判所は違憲判決を出した。「911」以来、愛国心が高揚しているので、判決には猛反発が起き、効力が停止した状態にあるという。しかし、米国の裁判所は政教分離を厳格に捉えている。日本の裁判所は行政追認で、司法の独立性はとても認められない。