◇牧師室より◇
今年の8月、小泉首相は靖国神社参拝には行かなかった。4月に突然参拝に行った時、中国、韓国政府から手厳しい批判を受けた。靖国問題は今や国際問題として扱われている。隣国からの批判を避けるため、靖国神社に祀られているA級戦犯を「分祀」しようという意見もある。政府も一宗教法人である靖国神社に「分祀」を強要できないことは知っている。ならば、公人の靖国参拝は憲法違反であることを認めるべきではないか。遺族会などから押され、また新しい戦死者を迎える準備のためか、閣僚たちは相変わらず参拝している。国内でも参拝に反対する世論は大きい。しかし、政府はその世論を無視し、隣国からの批難に気を使っている状況である。私たちの非力がなんとも残念である。しかし、五つの地方裁判所で、小泉首相の靖国参拝違憲訴訟が起きている。その訴訟に在日外国人、在外外国人も訴訟人として多数加わっている。
福田康夫官房長官は、衆議院有事法制特別委員会で、「国及び国民の安全を保つという高度の公共の福祉のため、合理的な範囲と判断される限りにおいては、思想、信仰の制限を受けることはあり得る」と語った。
この発言は、明治憲法 28 条「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務二背カサル限二於テ信教ノ自由ヲ有ス」を連想させる。安寧秩序、臣民の義務が大幅に解釈され、神社(靖国)参拝、そして天皇を現人神とする宮城遥拝が日本人だけでなく、朝鮮、台湾人にまでに強要された。信仰の自由は抹殺され、多くの人々が苦しみ殺された。
日本キリスト教協議会は、さっそく小泉首相に「福田官房長官の発言は、基本的人権を侵すもので憲法に違反します」と抗議文を送っている。「発言内容は、特定の思想家や宗教者に限らず、すべての人の生き方を制約し、戦争協力を強制させるものです」と思想、宗教に関わらず、全国民を統制する人権侵害であると批判している。日本キリスト者平和の会も「私たちキリスト者・宗教者は『信仰の自由の制限』を許さない」という声明を政府に送っている。戦時中、思想統制のため設置された恐怖の「治安維持法」の再来を実感すると厳重抗議し、有事三法案の廃案を要請している。
平和のないところでは人権もない。平和と人権は表裏一体である。国民の人権と平和を維持する現憲法の理念を自分たちの手で実行していくか、あるいは有事三法をやむを得ないものとするか、根本的に問われている。ただ、有事法制化は明らかに憲法違反である。