◇牧師室より◇

 アムネスティ・インターナショナルやNGO連合などが強力に推し進めてきた「国際刑事裁判所(International Criminal Court)」が発効することになった。1997年に成立した「対人地雷全面禁止条約」と共に平和に向けて画期的なことである。国際刑事裁判所では、国際法上最も重大な犯罪である人道に対する罪とジェノサイド(大量虐殺)の罪と戦争犯罪の三つが裁かれる。「侵略の罪」については定義が定まらず検討課題として先送りされた。

 1998年、ローマで国際刑事裁判所に関する会議が持たれた。この「ローマ会議」では「あと50年間は実現しないだろう」と見られ、各国は重要な地位にない若手を会議に送り込んだという。ところが、会議は若い力に満ちあふれ、「ローマ規定」を採択するか、棚上げにするかの決断にまで進んだ。最終投票結果は賛成120票、保留21票、反対7票の圧倒的多数で可決された。批准する国が60ヶ国に達した段階で発効するが、2005年までは無理だろうと言われていた。ところが、2002年4月11日に批准国は60ヶ国に達した。そのため、今年の7月1日に発効することになった。世界の多くの国々は正義を強く、そして早急に求めていることがよく分かる。

 「ローマ規定」の前文には「これは個人に対する犯罪ではない。これは国際社会全体に対する犯罪なのである。したがって、国際社会全体に対する犯罪に対処するのは国際社会全体の義務である」と謳われている。

 国際刑事裁判所がこれからどのように機能していくかは未知数である。裁判所の権威・力量が問われる。そして、大国の思惑などが絡んでくるであろう。しかし、無法な国際的犯罪を防ぐ第一歩になることに間違いない。

 現在「ローマ規定」に139ヶ国が署名している。これらの国々は批准を約束している。中国とインドは国際刑事裁判所の機能を見守りたいという立場で批准までに至ってない。米国のブッシュ大統領は批准しないと明言し、国際刑事裁判所への一切の協力を拒む態度を表明している。米軍人たちが裁かれることを恐れているからである。更に、刑事法学を専攻している前田朗氏は、「アフガニスタン攻撃は国連憲章上の正当な理由はない。国際犯罪者であるブッシュ大統領の裁きについても議論すべきであろう」と述べている。

 日本は国際刑事裁判所の設置に積極的に関与してきたが、最終段階で署名しなかった。いつものように米国を見て、自らの決断ができないのではないか。党首討論で小泉首相は「米国追従ではなく、米国を引き出す」と言っていたが、本当にそのようにしてもらいたいものである。

 今年の広島・長崎の「原爆の日」の平和記念式で、両市長は米国を名指しして独断的な核政策を批難するメッセージを語っていた。全く同感である。