◇牧師室より◇
中国・瀋陽の日本総領事館に北朝鮮の家族5人が亡命を求めて駆け込んだ。その彼らを中国の警察官が強引に拘束し連行した。北朝鮮からの亡命者は多く、支援する通信社が、この事件の一部始終を撮影し、世界中に配信した。立ち尽くして泣く少女の恐怖に怯える顔は人々の記憶から消えないだろう。
在外公館はウイーン条約によって不可侵と定められ、本国と同じ扱いにされる。その領域への他国の警察権の介入は主権侵害に当たる。中国側はウイーン条約の「公館を保護する責務」であると正当化していたが、テレビ映像では、警察官は敷地内に入った女性2人を暴力的に取り押さえている。公館を守るための行動とは誰の目にも見えない。更に、建物の中に入った男性も連行した。中国側はその後、副領事の同意と謝辞を受けたと言っている。小泉首相も当初は「中国側の誠意ある対応を求めたい」などと悠長なことを言っていたが、周りに押されてか、語調を少しずつ変えている。命をかけた亡命者に「人権尊重」の原則を果たせない公館職員と政府の対応はとても納得できるものではない。家族5人は無事に亡命できる。それを可能にしたのは「人権尊重」の国際世論を高めたテレビ映像の力である。
韓国の金大中大統領が、1973年に韓国CIAによって東京のホテルから拉致され、韓国に連れ戻された。これも日本の主権が侵された事件で、現状回復が当然の措置であったが、うやむやな政治決着で終った。政府の姿勢に内外からの批判があった。今回も、失態が重なり日本外交の貧しさを露呈した。
折りしも、有事立法が国会で審議されている。小泉首相は「備えあれば憂いなし」の格言から「国を守る」と言う。「国を守る」という言葉ほど曖昧で危険な言葉はない。有事立法は米国に気に入らない弱小国民を痛めつけるため、米軍の攻撃に荷担する法整備である。命の危うい亡命者の人権を守れない政府がもくろむ有事立法は国民を守るどころか、権利と安全を奪うだけである。
主イエスが示された「神の国」は、個々人は何者(物)によっても侵害されず、絶対的な神の名によって生き生かされる、人権が完全に保障された世界である。