◇牧師室より◇

朝日新聞の「五行歌」より。

「多摩川の

春ふくらむ土手の上

走って走って

脱ぎすてる

ゆうべまとった涙の衣」

 S.N(神奈川)

 S.N氏は、私の友人の富坂キリスト教センター研究主事をしているS.S牧師の奥さんである。奥さんは外国人に日本語を教える仕事をしておられる。S牧師は私たちの教会の「平和主日」に説教に来てくださった。

 S牧師夫妻のご長男が32歳の若さで昨年110日に交通事故で急逝された。福祉関係の仕事を励んでおられた。背が高くハンサムで、明るい性格が多くの人に愛されていた。ご夫妻にとって自慢の息子さんであった。葬儀を済ませた後、しばらくしてから連絡を受け取った。教会の祈祷会の日であったので、皆さんにも祈っていただいた。妻は奥さんに慰めの手紙を出した。S牧師から仕事は続けているが、誰にも会いたくない心境だという手紙をいただいた。数ヵ月後、共通の友人である信濃町教会のM牧師を誘ってお会いした。私は「一言だけ、お悔やみ申し上げます。後は申しません」と言ったところ、「何をするにも、息子の死が頭から離れない」と息子さんを失った悲しみを率直に語られた。S牧師は、ヒットラーの暗殺を計画したが発覚し、絞首刑になったボンへッファーの研究者であり、近く「ボンへッファー伝」を出版される。その仕事においても、息子さんの死が深く結び合っていると話された。

 奥さんも同じ悲しみを味わってこられた。生命の息吹を感じる土手を走りながら、昨夜まとった涙の衣を脱ぎ捨てていく。しかしまた、まとわりつかれることも知っておられる。ご夫妻に慰めを心から祈る。